リニア問題解決の兆しゼロ
JR東海の金子社長が2020年6月、静岡県庁で川勝知事と対談したが、不発に終わった。この時点で、2027年名古屋、2037年大阪の開業が絶望的となった(筆者撮影)
その際、大阪までの区間着工は、東京、名古屋の開業によって、リニアによる収入が生まれるようになってからだと説明した。
当然、「名古屋開業の前に、前倒しで大阪の工事を着工することは経営面で難しい」ともつけ加えた。
大阪府の吉村洋文知事に、「2037年開業が難しい」を伝えたことも明らかにした。
また丹羽社長は昨年8月3日の大阪市での会見で、「2037年開業は難しい」との認識をあらためて示している。
一方、川勝知事は1月4日の会見でも、「リニア中央新幹線建設促進同盟会に静岡県が入会する条件として、2027年名古屋まで開通、2037年大阪まで全線開通、この方針を受けてわたしは入会した。
しかし、2027年という数字が実質消えて、2037年までに東京から大阪まで全線開通という、これが残された最後の期限ということになる。従って、そのときまでに、環境保全とリニアとの両立という件は、2037年までに解決すればいいとわたしは受けとめている」と述べた。
このあと、記者が「リニアを巡る問題について、昨年10月の定例会見で、山にたとえると1合目より少し進んだと言っていたが、ことし1年で何合目まで進めたいのか」と尋ねた。
川勝知事は「南アルプスが守られたって意味では、1回下山した、登らないで下山したってこと」と答えた。
もともと解決する姿勢のない知事に、「何合目か」を聞くほうも聞くほうだが、これで、2024年も静岡県のリニア問題は解決の兆しさえないことだけがわかった。
川勝知事の欺瞞の正体を暴くことが、本当にリニア計画を推進することにつながっているのかどうか、筆者には見えない部分が多い。
何よりも、リニアに対する国民の関心の低さが、川勝知事の勝手気ままな主張を許しているからだ。
だから、リニア計画を一方的に批判する側は、川勝知事を熱烈に支持する構図となっている。
国は、水問題、自然環境での有識者会議の結論が出たのだから、川勝知事を含めたシンポジウムを開催したらどうか?
その席で、いったい何が正しいのか、間違っているのか、はっきりとさせたほうがいい。このままでは、リニア計画そのものが危ういものになってしまうかもしれない。
新年を迎え、高浜虚子の名句が、昨年からの難題にことしも直面していることを教える。
去年今年(こぞことし=新年の季語)貫く棒の如きもの
「静岡経済新聞」編集長。1954年静岡県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。政治部、文化部記者などを経て、2008年退社。現在、久能山東照宮博物館副館長、雑誌『静岡人』編集長。著作に『静岡県で大往生しよう』(静岡新聞社)、『家康、真骨頂、狸おやじのすすめ』(平凡社)などがある。