【読書亡羊】「ガチの事態」が起きたからこそやってきた「専門家の時代」  川島真・鈴木絢女・小泉悠編著、池内恵監修『ユーラシアの自画像』(PHP)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする2023年最後の時事書評!


本当の意味での「国力のある国」とは

元陸自幹部で、ご自身も専門家としてウクライナ情勢の解説に励んでいる渡部悦和元東部方面総監も、「正しい情報を知りたければテレビを見ろ」と仰っていたのは象徴的である。

もちろん、「まともなニュース番組」という前提はつくのだが、認知戦の知見を持つ渡部氏だからこその発言でもある。ネットの魔窟をのぞき込み、偽情報に騙されるくらいならマスメディアから情報を得ていた方が、まだマシな情報環境を持てるからだ。

「ガチの事態」に至ると、いわゆる平時のような「ある報道の論評や別の論者の批判」、つまりカウンター的な言説では、読者の「知りたい欲」を満たすことはできない。聞きたいのは誰かの批判ではなく、そこで何が起き、これからどうなるのか、だからだ。

そして本誌読者の多くが危惧するように、中国が「ガチの事態」を起こしかねない状況が依然として続いている。こうした危機的状況下で、何よりも大事なのは情報と分析の正確さである。

専門家が活躍でき、一般読者(視聴者)と良好な関係を築くことができる社会こそ、本当の意味で「国力のある国」なのだろう。本書はそんな「基本」を教えてくれる。

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

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