JR東海への「風評加害」
それだけでなく、2027年開業を困難にしているのが、静岡工区の未着工ではなく、他の懸念する6事案があることを指摘、それらを解決するJR東海の方策について岸田首相の回答を求めているのだ。
その中に、『JR東海の長期債務残高「6兆円」問題』というタイトル事案が登場している。
そこにはこう書いてある。
〈JR東海は、(2010年)中央新幹線小委員会で「長期債務残高を『5兆円以内』とすることが適切かつ必要」とし、「長期債務残高『6兆円』を想定すると、ピークの年には新規・借換を合わせて1年間で1兆円を超える調達が必要になる。こうした多額の調達は現実に極めて難しい」と表明した。
しかし、現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度「5兆円以内」を優に超えている。国に提出した事業計画とは明らかに異なる事態で、政府による検証が必要である〉
つまり、現在のJR東海の経営があまりにも危機的であると糾弾した。
それどころか、川勝知事は2022年12月27日の会見で「6兆円になる債務、長期債務残高ではやっていけない。ところが、(現在)6兆円になっています」と述べたのに続いて、2023年1月11日には「長期債務残高が5兆円以下なら体力が持つ。
しかし6兆円になったらもたないと(JR東海は)国交省に正式な文書で言っている。現在6兆円です」、「借金が6兆円ありますからね。長期債務残高が。そういう中でどうやっていくのか」など「JR東海の長期債務残高6兆円」を連発した。
ところが、実際は、現在公表しているJR東海の長期債務残高は「4・94兆円」。そのうち、「3兆円」は元本返済30年猶予、超低金利の財政投融資の債務であり、コロナ禍だったにも関わらず健全経営を保っていた。
つまり、意見書は、川勝知事の間違いをそのまま記載してしまったのだ。「風評被害」を引き起こす犯罪行為に等しい間違いである。
川勝知事の連発した「6兆円」を鵜呑みにして、担当者らは公開されているJR東海の財務諸表をちゃんと確認しなかった。筆者の指摘で、ようやく気がついたのだ。
県庁職員たちが「算数の計算ができない」のかどうかはわらかないが、こういうことをふつう「お粗末であきれる」と言うのだ。
「お気の毒」な川勝知事
財投資金3兆円は、当時の安倍晋三首相の指示で、2016、17年の2カ年で投入された。これで長期債務は5兆円近くまで一気に膨らんだが、品川・大阪間の開業を8年前倒しするために投入されたものである。
品川・名古屋間の開業後に、名古屋・大阪間のリニア工事に早期着手させる趣旨で、30年間元本返済猶予でリニア開業後に元本返済という非常に有利な債務であり、利子負担も非常に軽く、経営を圧迫するものではない。
この重大な誤りだけでなく、悪意に満ちた川勝知事の意見書はJR東海の経営状況が危機的であると周囲に思わせるものばかりだ。
それを岸田首相宛に送っただけでなく、すぐに、そのまま静岡県ホームページに公開してしまった。
当然、担当者が衆院議員会館の岸田事務所を訪れ、訂正書を手渡した。岸田事務所は即、ごみ箱に捨ててしまっただろう。
10月23日の会見で、記者から「今回の報告書内容で、岸田総理に何らかの意見書を出すのか」と問われると、川勝知事は「手紙を差し上げる考えはない。これほどお粗末なものを出してきたのでは、岸田総理がお気の毒だ」などと述べた。
気の毒なのは誰なのか?職員たちは、こちらから何か言えば、恥の上塗りになることを恐れたのだろう。
川勝知事は自身の重大な間違いを訂正した上で、JR東海にちゃんと謝罪してもいないのだ。
それなのに、相手には厳しく、それも悪口ばかり言うのは平気なのだ。
そんな「川勝劇場」をちゃんと理解できれば、虚言、妄言、ごまかしばかりがちゃんと見えてくる。そろそろ静岡県民たちも気がついたほうがいい。