残念な予言は現実のものに
400ページ近いボリュームのある本書だが、逆に言えばこの問題を丁寧に解説しようと思ったら、これくらいの紙幅が必要であるということの証左でもある。
アメリカとイスラエルの関係、イスラエルと中東諸国の関係性、アメリカにおけるユダヤ人の心境、かつての反ユダヤ主義を懺悔する欧州とその贖罪のダシに使われていると感じるアラブ……などなど、今知りたい情報に目配りが届いている。
読んでいるうちに混乱しそうな用語解説まで備えられており、イスラエル―パレスチナ問題をわずかでも理解したい読者にとってはありがたい工夫が凝らされている。
何より、140字の書き込みや、15分の解説動画では知り得ない機微まで読み取ることができるのは、ユダヤ人である筆者が〈イスラエル人もパレスチナ人も、誰もが平等な権利と安全を保障されるべきだ〉というフェアであろうとする視点を持っているからでもある。
本書の巻末に「解説」寄せた元外交官(現三菱総合研究所主任研究員)・中川浩一氏はこう述べている。
残念ながら2023年は、イスラエルとパレスチナの憎しみと恐怖の連鎖がさらに激しさを増す年になるかもしれない。
「イスラエルについてどう思う?」と聞かれたら、あなたは何と答えますか?【『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』】 | NHK出版デジタルマガジン
https://mag.nhk-book.co.jp/article/31465WEBマガジン「本がひらく」から、増刷が決定したイスラエル-パレスチナ問題の解説書『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』の冒頭の一部と解説を全文公開いたします。
この残念な予言は結果として現実のものとなってしまった。だが、「あそこはもはやどうにもならない」と諦めたら、すべてはそこで終わりになってしまう。
2023年2月末刊の本書は発売後、さまざまな媒体の書評に取り上げられ、版を重ねたという。事態が起きたときに、すぐにこうした良書を手に取れる日本の出版環境に感謝しつつ、「憎しみと恐怖の連鎖」が招く事態の早期収束を願わずにはいられない。