【レジェンド対談】出版界よ、もっと元気を出せ!|田中健五×木滑良久

【レジェンド対談】出版界よ、もっと元気を出せ!|田中健五×木滑良久

マガジンハウスで『BRUTUS』『POPEYE』などを創刊した名編集者・木滑良久さんが亡くなりました(2023年7月13日)。追悼として、『文藝春秋』で「田中角栄研究」を手掛けた田中健五さん(2022年5月7日逝去)との貴重な対談を『Hanada』プラスに特別公開! かつての出版界の破天荒さ、編集という仕事がどれだけおもしろいのか、そして木滑さんと田中さんがどのような編集者だったのかを知っていただければうれしいです。


『平凡』表紙の哲学

花田 木滑さんといえば、雑誌の表紙のために、羽田空港やいろいろな所で、来日したばかりの世界の有名俳優や女優を「ちょっとこっちへ」と誘導、パシャリと撮って表紙にしていた──というエピソードが残っています。

木滑 業界では”第二税関”なんて言われてた。相手は何が何だかわからないうちに撮っちゃう。いまだったらテロリスト扱いされただろうな(笑)。

まず、帝国ホテルなどのフロントやクラークと話をつけておいて、誰か有名人が来るという情報があったら教えてもらう約束をしていたんです。「今度、ジェームズ・スチュアートが来ますよ」と連絡が入る。時々、同名異人のこともある(笑)。調べてみたら、役者でも何でもない、アジア財団かなんかの偉い人だったり。

で、撮影したいんだけど、なかなかスタジオには連れて行けない。なかには、トランジットのためだけに羽田空港に来た人もいる。だから、ホリゾント(撮影背景用の白い幕)を持ち運べるよう改造して、それを空港まで持って行ってセッティングしておいて、その場で撮影できるようにしたんです。

日本の女優さんとツーショット写真という企画になるんだけど、女優さんはアメリカの俳優や歌手に会えるもんだから、時間を都合してくれて楽(笑)。でも、トラックで移動したりして大変だった。アラン・ドロンは、どっかのホテルのプールまでホリゾントを持って行って撮影しましたよ(笑)。

花田 『週刊平凡』の表紙の写真はいつも豪華でしたよね。長嶋茂雄、大鵬、美空ひばりなんて組み合わせもあった。あんなことは、いまじゃ絶対できません。

木滑 初代編集長の清水達夫は、表紙写真は・異種交配・で行くと。つまり、これまでスターというと映画俳優だったけど、歌手もスポーツ選手もファッションモデルもアナウンサーも力士も全部スターで、それらを組み合わせることで面白さを出す、という方針だったんです。

で、大変だったのは創刊号の表紙。清水さんが「木滑君、創刊号には赤いスポーツカーがいるんだ」と言い出した。でも、外国の雑誌には出ているけど、当時は日本には赤いスポーツカーなんてどこにもなかった。

一所懸命探したけど、やっぱりない。弱ったなぁと思っていたある日、六本木から溜池までタクシーで移動中、自動車修理工場に赤いスポーツカーがあったのを偶然、発見した。すぐさま「運転手さん、停めて!」と言って、工場に飛び込んだ。

「この車、誰の?」と訊いたら、アメリカ大使館の人の車だという。「借りられないかな」と言うと、「このビルの上に住んでますよ」と教えてくれたから、早速行ってお願いしたら「ここで撮るならかまわないよ」とのことだった。

そこで、高橋圭三と団令子を連れて来て、ホリゾントも持って行って撮影をした。扇風機を回してスカーフがはためくようにして、車が走ってる感じを出したりしてね(笑)。

花田 お二人が知り合ったのは、何がキッカケですか?

木滑 田中さんに声をかけられたんです。新潮の新田敞さんとか、朝日の涌井昭治さんと集まる会合に誘われて。

花田 昔は、出版社の人も新聞社の人も、よく一緒にメシ喰ったり酒飲んだりしていましたね。

木滑 週刊誌記者と交流したりね。

田中 いまはそういう交流がないみたいね。朝日や文春なんて、ケンカしながらも仲が良かった。

『週刊平凡』創刊号。赤いスポーツ―カーに木滑氏が苦労した……。

蕎麦のためにジェット機を

花田 朝日の現役記者が『文藝春秋』に記事を書いたりしていましたが、いまは少ない。

木滑 京都は狭い街だから、京都大学の先生たちが先斗町なんかで飲んでいると、飲み屋で他学部の先生としょっちゅう会うそうです。それで年中、情報交換をしたり、刺激を受けたりしている。一方、東大の先生はそれがない。ノーベル賞を受賞する/しないはその差じゃないか、なんていう話がありますね。

そういや、その集まりで、「ソニーの盛田昭夫さんが『ファルコン』という小型のジェット機を開発したから乗せてもらおう」なんて話になりましたよね。ソニーのほうものりがよく、しょっちゅう長崎に行ったり、函館に行ったりしたものです。蕎麦を喰うためにだけ、ジェット機に乗ったこともあった(笑)。

田中 函館ではゴルフもやったな。

花田 池島信平さんも、よく香港に邱永漢さんや文壇の先生方と飯を喰いに行ったりしていましたね。

木滑 いい商売だったんだよ(笑)。

花田 いまでもいい商売なんですよ。お二人も面白かったでしょ。

木滑 面白かったですね。

田中 うん、面白かった。

木滑 前に、雑誌協会の年末に出る会報に「あー、面白かった」と書いたら、みんなに怒られたな。「この不況に『面白かった』はないだろう」って(笑)。

田中 FIPP(国際雑誌連合)の東京大会も、雑誌業界が元気だったからできたんだね。FIPPは世界大会を2年に1回やっているんだけど、98年の大会を東京で行うことになった。

それで困ったのは、会場をどこにするかということ。たとえば、アムステルダムはコンセルトヘボウ管弦楽団のコンサート会場を使い、オーケストラが演奏をする。アメリカのオーランドならディズニーワールド、パリならヴェルサイユ宮殿……と各国、その国の色が強く出る場所を会場にしている。日本のアイデンティティを見せつける場はどこなのか、となかなかまとまらなかった。

最終的には帝国ホテルで行うことになり、女性が着物を着てサービスし、さらに力士を呼ぼうということになった。

それで場所中だったけど、相撲協会に行ってお願いした。英語を喋れる小錦はどうか、あと貴乃花、若乃花も来て欲しいとお願いしたら、全部聞いてくれてね。場所中なのに、取り組みが終わるとすぐに羽織袴姿で来てくれたよ。6時半の開会に間に合わせてくれた。桝酒の桝にサインをすることになったんだけど、貴乃花には行列ができていたな。

木滑 その時、僕は理事長の田中さんの命令で、外国人の接待担当だったからよく覚えていますよ。東京能楽堂に連れて行って、「退屈するだろうな」と思ったけど、そうでもなかったですね。みんな楽しく見ていた。

一番よかったのは、明治記念館。夜、亭々たる木の下で、女性が一人篠笛を吹く。スポットライトは一つだけの神秘的な演出で、みんな見入っていましたよ。

花田 お話をうかがえばうかがうほど、面白いエピソードが出てきますね。お二人の話をうかがって改めて、こんな面白い仕事はない、と思いました。木滑さんは、もう雑誌作りをしたいとは思わないんですか?

木滑 同じ雑誌を長くやるのはやっぱり飽きますね。定期刊行物は、どうしても繰り返しになるから。「また同じことをやってるな」と思っちゃう。花田さんは?

花田 これが、いつまで経っても飽きないですねぇ。

木滑 いいなぁ。本当に楽しんでいるんだな(笑)。

花田 最後に木滑さん、いまの雑誌界の若い人たちに激励の言葉を。

木滑 創造とは”本能”の産物。”本能”とは、辞書で見ると「生まれつきそなえている性質」と書いてある。人それぞれが持っている本能が、教育や家庭や友人たちの影響を受けて独得のものになっていく。

もっと乱暴に言うと、”本能”とは好き嫌いといってもたいした間違いではないかもしれない……つまり、インプロのことなのです。そして、もうひとつ。”年をとる”ということ。年月を経ると円熟して“味”が出るという話もあるが、編集はスポーツと考えると、ある程度、急いだほうがいいかもしれないね。

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