【レジェンド対談】出版界よ、もっと元気を出せ!|田中健五×木滑良久

【レジェンド対談】出版界よ、もっと元気を出せ!|田中健五×木滑良久

マガジンハウスで『BRUTUS』『POPEYE』などを創刊した名編集者・木滑良久さんが亡くなりました(2023年7月13日)。追悼として、『文藝春秋』で「田中角栄研究」を手掛けた田中健五さん(2022年5月7日逝去)との貴重な対談を『Hanada』プラスに特別公開! かつての出版界の破天荒さ、編集という仕事がどれだけおもしろいのか、そして木滑さんと田中さんがどのような編集者だったのかを知っていただければうれしいです。


ドイツで救急搬送される

花田 そもそも健五さんはなぜ、文藝春秋に入ったんですか?

田中 たまたま、文春に顔のある友人がいたんだよ。

花田 出版をやりたかったんですか?

田中 まぁ、ジャーナリストの何かになりたいとは思っていましたね。それくらいしかなれないだろうと(笑)。ジャーナリストとか物書きは、勉強しなくてもよかったからね。

そもそも大学に行く時だって、勉強しなくて済むと聞いたから文学部に行ったんだよ。それも、英文などより競争率が低いからと独文を選んだだけ。それで、いかにうまく遊ぶかを考えていた。もちろん、アルバイトもしましたけどね。自活していたから。

肉体労働もやったし、家庭教師もやった。それから、当時の新制高校には第二外国語があって、新宿高校でドイツ語を教えてた。一年前に大学でドイツ語を始めたばかりで、高校で教えているんだからいい加減なものだね(笑)。

それで、ドイツ語を中途半端にやったなという後悔があったから、会社を辞めてから真面目にやろうとドイツへ行ったりしたわけよ。行ったり来たりで、合わせて一年くらいは行ったかな。

木滑 でも、ドイツの郵便局で倒れちゃったんでしょ。

田中 そう。心房細動が起きてね。シュツットガルトでのことなんだけど、向こうの東大病院みたいなところに運び込まれた。倒れて一時間半くらいで目を覚ましたら、なんか高そうな病院だったから「俺は帰る」と言ったんだけど、「冗談じゃない」と引きとめられた(笑)。

翌日に退院して、もらった薬を飲みながらフランクフルトで五日間過ごして、帰国した。家に帰って寝る時に、頭が熱くて重い。これはおかしいと病院に駆け込んだら、軽い脳梗塞だったんだよ。だから倒れたのも、脳梗塞に心房細動が合わさったからじゃないかと思う。幸い、脳梗塞は薬で治った。

木滑 年寄りは、いつの間にか病気の話になっちゃうな(笑)。

花田 文春に入って仕事はどうでしたか? 面白かったでしょ?

田中 いや、面白くなかったな。「自分が役に立つことがあるのかな」と思っている時期が5、6年あったからね。というのは、新人時代は原稿取りくらいしかしないでしょ。

木滑 岩田専太郎の絵も取りに行ってませんでした?

田中 行ってた。絵を待っている間に、他社の編集者とマージャンをしてたな。

で、そのあと、『現代日本文学館』とか『大世界史』とかを編集した時に少し忙しくなってきて、少しは会社の役に立ってきたかなと思ったね。

現代日本文学館全43巻

活気に満ちていた文壇

花田 役に立つも何も、『現代日本文学館』は健五さんが先頭でやったものでしょう。あれはいい全集でした。装幀もすばらしかった。健五さんはその後、『大世界史』をやって論壇の人と交流を深めたんですよね。

田中 それはそうだね。その後、『諸君』に出てもらった物書きは、その時に出会った人が多いですね。林健太郎と腹割って話すようになったのもその時だし。

花田 『現代日本文学館』は、小林秀雄さんの責任編集でしたよね。

田中 『現代日本文学館』の編集の助っ人をやったのが大岡昇平、中村光夫で、僕は使いっ走りみたいなものだった。

ある時、誰を入れるか、誰と誰を組み合わせるかの荒目次ができて、各著者に挨拶をすることになった。それで僕は石川淳のところに行ったんだ。そうしたら石川淳が、「俺と小林は同い年なんだよ……。なんで俺が”相乗り”(他の作家と組み合わせて一冊にする)なんだよ」と怒った。

戻って会議でそう伝えると、小林さんは「じゃあ、石川は一冊にしよう」という。すると大岡昇平が、「小林(──大岡さんは後輩なのに呼び捨てにするんだよ──)、そんなことでどうする。全集が物にならないぞ」。酒が入っていたせいか、「やるか、この野郎!」なんて騒ぎになっちゃった(笑)。

翌日、たまたま大岡昇平、中村光夫らとゴルフに行ったんだけど、送り出した僕に大岡が、「昨日、面白いもの見たな。小林秀雄の酔っ払った姿は久しくなかった」と言われた(笑)。いい歳していたけど、みんな子供みたいでしたね。そういう文壇の面白さも、いまはなくなりましたね。

花田 結局、石川淳さんは一人で一巻になったんですか?

田中 そうですね。なりました。

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