凋落するときはあっという間
本書を読む限り、電機産業の没落は「なるべくしてなった」としか言いようがないように思えるのだが、この「五つの大罪」は何も電機産業界のみに当てはまるものではない。
ほんの十数年前、保守論壇では「中国崩壊論」が盛んに唱えられていた。もちろんそれはしばらくして「中国脅威論」にとってかわったが、「毒入り餃子事件」(2008年)頃の中国への視線は「遅れた国ってのは本当にどうしようもないね」といったものだった。
既に中国の軍事力、経済力の台頭は見えていて、警鐘を鳴らしてもいた。だが「そうはいってもまだまだ日本の方が中国よりも進んでいる」との「慢心」が全くなかったとは言えないだろう。あっという間にGDPも科学論文数も追い抜かれてしまった。
あるいは韓国企業のサムスンが半導体(DRAM)シェアで東芝を抜いたのは実に1993年のことだが、そこから20年近く、日本(特に保守の間)でのイメージは「韓国がまた日本の金を目当てに謝罪と賠償を要求している、日本にたかっている」といったものだったのだ。
これも一つの慢心であり、誤認であったことは間違いない。
いつまでも大国意識が抜けないでいる間に、「出稼ぎ先」としての日本は中国に見限られ、ベトナムからも「大して稼げないし、そろそろ潮時」とみられる状況にある。ついには若者たちが他国へ出稼ぎに行く国になってしまった。凋落はあっという間だったというほかない。
本書が指摘する「五つの大罪」は、「日本はなぜ凋落したのか」の答えでもあるのではないだろうか。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。