【読書亡羊】電機産業から見えてくる日本全体の「失敗の本質」 桂幹『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』(集英社新書)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


克服できない「失敗の本質」

「欠落の章」と題した第五章では、『失敗の本質』の一節が引用されている。

目的のあいまいな作戦は、必ず失敗する。それは軍隊という大規模組織を明確な方向性を欠いたまま指揮し、行動させることになるからである。

同様に、電機産業が凋落していった1990年代以降の日本の電機産業企業に欠けていたのは、明確な目標を掲げ、社員を行動させる姿勢だった、と本書はいう。

今はどうか。ミッション、ビジョンが大事だという話は浸透し、数年前からはさらに上位の「パーパス」というビジネス用語が広がり始めている。これは「ミッション(目的)やビジョン(あるべき姿)よりもさらに上位に位置する、企業そのものの存在価値や社会的意義」を指すようだ。

だが「パーパスとは何か」についてまとめたページのある、某企業のウェブサイトを読んでいると頭が痛くなってくる。「サステナブルな企業に……」「パーパスブランディングでより多くの人々の共感を……」。何を言っているのか(言いたいのか)、正直さっぱりわからないのだ。

別のある企業は、こうした「パーパス」や自社製品の特徴を社会や顧客に説く役職を「エヴァンジェリスト(伝道師)」と名付けていたが、まず自分の役職を正しく顧客に説明できるのかと余計な心配をしてしまう。

桂氏は第四章で「半端の罪」にも触れている。ここでは主に雇用について「中途半端にアメリカ式を取り入れて失敗した」ことを指しているが、新しい言葉だけを持ってきて本質を理解せず「パーパスだ」「エヴァンジェリストだ」と言ってみても、これまた「半端の罪」に陥るだけだろう。

パーパスとは?ビジネスでの意味やパーパス経営の事例を紹介 | NECソリューションイノベータ

https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20221223_purpose.html#:~:text=%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%91%E3%82%B9%EF%BC%88Purpose%EF%BC%89%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81,%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E4%BD%BF%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

パーパスとは、企業の存在意義や志を指す言葉です。本記事ではパーパスの意味や広まった背景、パーパス策定のメリット、パーパス経営を実践する企業事例などについてわかりやすく解説します。

あくまで参考例です。

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