11月25日、防衛省のシンクタンクである防衛研究所は「中国安全保障レポート2023」を公表した。29日には米国防総省が中国の軍事力に関する年次報告書を公表した。両報告書とも中国が米国中心の国際秩序への挑戦を強めているという認識で一致している。
後者は核を含む軍事戦略的な記述が多く、前者は、サブタイトルが「認知領域とグレーゾーン事態の掌握を目指す中国」とあるように、我が国の安全保障に直接かかわる記述が多い。ここでは前者のレポートを中心に、我が国が直面する課題を述べる。
中国の影響力工作とグレーゾーン作戦
10月の中国共産党大会で、習近平総書記(国家主席)は台湾統一について、「最大の誠意と努力で平和的な統一を目指すが、決して武力行使を放棄せず、あらゆる必要な措置をとる」と述べた。防衛研究所のレポートでは「あらゆる必要な措置」として「非軍事的手段の強化」「影響力工作」「グレーゾーン事態」の3項目が詳述されている。
中国は「不戦屈敵」(戦わずして勝つ)を最上とする「孫子の兵法」の国である。台湾住民が「戦っても無駄」と判断した時点でゲームセットとなる。これが「認知戦」である。このための様々な影響力工作が現在進行中である。宣伝工作、三戦(世論戦、心理戦、法律戦)、統一戦線工作(敵の分裂、友好勢力の増強)、ソーシャルメディア利用、サイバー戦、企業や軍人への直接工作などが、具体例と共に述べられている。先日、台湾地方選挙で与党民進党が惨敗した。こういった工作が行われたのだろう。当然、日本の政財界でも工作活動は実施されているとみなければならない。
「海上で展開されるグレーゾーン事態」で述べられている海上民兵と海警の活動状況は、特に日本にとって深刻である。海上民兵は普段は漁民だが、必要の都度これを組織化する。装備および権限の強化された海警と組織化された海上民兵を党中央軍事委員会が直接指揮し、「海上権益主張行動」を実施する。海上民兵は「軍が行うには危機エスカレーションを招くおそれがあり、法執行機関が行うにはコストが高く、一般の漁民では装備や管理などが難しい広範囲にわたる準軍事活動」に投入される。