日銀は12月20日、長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げた。円安の行き過ぎを直すためだが、アベノミクスの主柱である異次元金融緩和解体の始まりで来年には利上げに転じるとの憶測を招いた。財政の方は、岸田文雄政権が2年後以降の防衛増税を企図している。利上げと増税は、民間の景気回復期待を萎えさせ、来春闘での賃上げ機運に冷水を浴びせる。日銀と政府は、内需がしっかりとした回復軌道に乗るまでは金融緩和と機動的な財政出動を堅持する決意を明確に打ち出すべきだ。
「黒田後」に利上げ観測も
黒田東彦日銀総裁は記者会見で「利上げではない」と言い切ったが、市場の長期金利上昇圧力を払拭できない。「量」の面でも異次元緩和の軌道修正の印象が否めない。日銀資金発行残高が縮小基調にあるからだ。
市場の思惑を大きく突き動かす背景は、黒田総裁が来年4月に任期終了を迎えることだ。後任候補で有力視されるのは雨宮正佳副総裁ら日銀生え抜き組だ。日銀は伝統的に引き締めに傾斜し、金融緩和に後ろ向きである。現時点は金融緩和に積極的なリフレ派が優勢だが、「黒田後」は少数派に転じかねない。そうなると、メガバンクなどの不満が強いマイナス金利をやめ、利上げが進みやすくなる。
一般論では、借り手が得をするマイナス金利は異常であり、正常化しなければならない。だが、日本経済は高インフレの米欧と違ってデフレ圧力が強いままだ。マイナス金利解除を号砲に、円高が急激に進行しかねない。現に、今回の長期金利上限引き上げの調整だけで、円買いラッシュが起きた。利上げと円高は共にデフレ圧力となり、企業の設備投資や家計の消費意欲を削ぐ。
脱デフレの好機
財政面でも、岸田政権は防衛費増額財源確保のため来年度当初予算から引き締め気味の財政運営に転じようとしている。23日に閣議決定した政府案の税及び税外収入合計は今年度当初予算に比べて8兆円以上の増収だが、国債費を除く歳出は5.8兆円余増で、この差額が民間需要を奪う緊縮効果となりかねない。しかも防衛増税がその先に待ち構えている。
日本経済は1990年代後半以降、国内総生産(GDP)はほとんど増えないままだ。この間、何度か脱デフレの好機があったが、政府と日銀はそのつど緊縮財政または金融引き締めで壊した。今回は、新型コロナの収束期待と円安が追い風になって設備投資が上向き、賃上げのコンセンサスも生まれつつある。失敗を繰り返してはならない。(2022.12.26国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)