北朝鮮の対露支援の内幕|西岡力

北朝鮮の対露支援の内幕|西岡力

特殊部隊を労働者に偽装してドンバス(東部2州)に派遣して復興工事にあたらせ、場合によっては戦闘参加もさせる―金正恩が指示したロシア政府への提案の具体的な中身とは。


米政府は、ウクライナ戦争で苦戦するロシアが北朝鮮から数百万発のロケット砲や迫撃砲の砲弾を輸入するための協議の過程にあると明らかにした。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が9月6日の記者会見で述べた。すでに輸入されたかどうかは未確認としている。

また、ロシアは独立を宣言させたウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州で北朝鮮労働者を使う方針を決めた。フスヌリン副首相が既に北朝鮮に対して労働者派遣を要請したことを認めたという(東京新聞9月6日)。

3月の秘密会談では回答保留

これらのニュースに接して私は、今年3月、ロシアのショイグ国防相が北京で北朝鮮人民軍幹部と秘密会談をしたことを思い出した。ショイグ国防相は訪朝を希望したが、コロナウィルス問題で外国人の入国を拒んでいる北朝鮮が北京での会談を逆提案したという。会談でショイグ国防相は北朝鮮に特殊部隊の派兵やミサイルとその部品の提供を要請し、北朝鮮は検討すると答えた。北朝鮮の金正恩総書記はロシア軍が予想に反して弱いのを目にして、ロシアを全面的に支持すると表明しつつ、戦争への介入を避けるという方針を決めた、と当時情報筋から聞いた。

また、ロシアは国連安保理制裁で受け入れを禁止されている北朝鮮労働者をいまも国内に残留させているが、ウクライナ戦争開始後、ロシア通貨ルーブルで支払われる賃金がドルと交換できなくなったため、北朝鮮当局が困っているという情報を得ていた。

だから、北朝鮮がロシアに砲弾や労働者を出すことはないのではないかと思った。しかし、最新情勢を情報関係者に取材すると、北朝鮮がロシアに対して支援の用意を示し、いま水面下で協議が進んでいることが分かった。

特殊部隊を労働者に偽装してドンバスに送る

情報関係者によると、金正恩の指令を受けて在モスクワ北朝鮮大使館の武官がロシア政府に対し、①ロケット砲と砲弾を提供する用意がある②特殊部隊を労働者に偽装してドンバス(東部2州)に派遣して復興工事にあたらせ、場合によっては戦闘参加もさせる③代価として、ルーブルではなく、ドルか石油(原油でなくガソリンなど精製済みのもの)か食料が欲しい―という提案を行ったという。現在、協議が進行中で最終結論は出ていない。

なお、北朝鮮軍が持つロケット砲や砲弾はロシア製が大部分なのでロシア軍のものと互換性があるが、保管状態が悪いので不発弾が多いという欠点がある。2010年11月に起きた韓国・延坪島砲撃事件では、なんと約半数の砲弾が不発か海に落下したという。

世界最貧国の北朝鮮に支援を求めざるを得ないほどロシア軍が苦境に陥っていることは事実だ。北朝鮮から軍需品を輸入すること、北朝鮮労働者を使うことは国連制裁違反だ。もしこれらのことが行われるなら、国際社会はより厳しい制裁を北朝鮮とロシアに科すべきだ。(2022.09.12国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃|松木國俊

慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃|松木國俊

日本側の慰安婦問題研究者が、「敵地」とも言うべき韓国に乗り込み、直接韓国の人々に真実を訴えるという、大胆で意欲的な企画が実現した。これまでになかった日韓「慰安婦の嘘」との闘いをシンポジウムの登壇者、松木國俊氏が緊急レポート!


ロシア外務省から激烈な抗議|石井英俊

ロシア外務省から激烈な抗議|石井英俊

「日本は報復措置を覚悟しろ!」――ロシア外務省はなぜ「ロシア後の自由な民族フォーラム」に対して異常ともいえる激烈な反応を示したのか。


イーロン・マスクが激奨する38歳の米大統領選候補者|石井陽子

イーロン・マスクが激奨する38歳の米大統領選候補者|石井陽子

米史上最年少の共和党大統領候補者にいま全米の注目が注がれている。ビべック・ラマスワミ氏、38歳。彼はなぜこれほどまでに米国民を惹きつけるのか。政治のアウトサイダーが米大統領に就任するという「トランプの再来」はなるか。


今にも台湾侵略が起きてもおかしくない段階だ|和田政宗

今にも台湾侵略が起きてもおかしくない段階だ|和田政宗

台湾をめぐる中国軍の「異常」な動きと中国、ロシア、北朝鮮の3国の連携は、もっと我が国で報道されるべきであるが、報道機関はその重要性が分からないのか台湾侵略危機と絡めて報道されることがほとんどない――。台湾有事は日本有事。ステージは変わった!


【読書亡羊】前代未聞! 北朝鮮アニメの全貌が明らかになるまさかの一冊  大江・留・丈二『北朝鮮アニメ大全――朝鮮民主主義人民共和国漫画映画史』(合同会社パブリブ)

【読書亡羊】前代未聞! 北朝鮮アニメの全貌が明らかになるまさかの一冊 大江・留・丈二『北朝鮮アニメ大全――朝鮮民主主義人民共和国漫画映画史』(合同会社パブリブ)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


なべやかん遺産|「コレクションの飾り方」

なべやかん遺産|「コレクションの飾り方」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「コレクションの飾り方」!


【処理水】国際社会に問え!「日本と中国、どちらが信頼できるか」|上野景文

【処理水】国際社会に問え!「日本と中国、どちらが信頼できるか」|上野景文

福島第一原子力発電所の処理水放出を開始した途端、喧しく反対する中国。日本はどのように国際社会に訴えるべきか。


【レジェンド対談】出版界よ、もっと元気を出せ!|田中健五×木滑良久

【レジェンド対談】出版界よ、もっと元気を出せ!|田中健五×木滑良久

マガジンハウスで『BRUTUS』『POPEYE』などを創刊した名編集者・木滑良久さんが亡くなりました(2023年7月13日)。追悼として、『文藝春秋』で「田中角栄研究」を手掛けた田中健五さん(2022年5月7日逝去)との貴重な対談を『Hanada』プラスに特別公開! かつての出版界の破天荒さ、編集という仕事がどれだけおもしろいのか、そして木滑さんと田中さんがどのような編集者だったのかを知っていただければうれしいです。


慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃|松木國俊

慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃|松木國俊

日本側の慰安婦問題研究者が、「敵地」とも言うべき韓国に乗り込み、直接韓国の人々に真実を訴えるという、大胆で意欲的な企画が実現した。これまでになかった日韓「慰安婦の嘘」との闘いをシンポジウムの登壇者、松木國俊氏が緊急レポート!


ロシア外務省から激烈な抗議|石井英俊

ロシア外務省から激烈な抗議|石井英俊

「日本は報復措置を覚悟しろ!」――ロシア外務省はなぜ「ロシア後の自由な民族フォーラム」に対して異常ともいえる激烈な反応を示したのか。