知性とモラルを欠いた日本の国会|田久保忠衛

知性とモラルを欠いた日本の国会|田久保忠衛

つい最近まで日本の最高指導者だった人物が公衆の面前で真っ昼間に暗殺されたのに、国の在り方は問題にもされず、取るに足らぬ瑣末な問題に貴重な時間が徒に費やされている。知性とモラルと勇気を欠いた日本の国会こそ「戦後レジーム」の象徴である。


衆参両院の議事運営委員会の閉会中審査に岸田文雄首相が出席し、立憲民主党の泉健太代表が質問をするというので、8日にテレビを視聴した。そこで感じた絶望的な怒りはいまだに収まらない。つい最近まで日本の最高指導者だった人物が公衆の面前で真っ昼間に暗殺されたのに、国の在り方は問題にもされず、取るに足らぬ瑣末な問題に貴重な時間が徒(いたずら)に費やされている。

安倍氏の死への慟哭の念はどこに

保守系の人々には不評判だったが一般大衆には圧倒的人気のあった政治家、浅沼稲次郎氏(社会党委員長)が昭和35(1960)年、東京の日比谷公会堂で刺殺された事件を、私はテレビで見ていた。国会で追悼演説をした池田勇人首相(自民党総裁)は「沼は演説百姓よ」で始まる名文を訥訥(とつとつ)と読み上げた。演説下手の池田氏の調子は人の心に迫る哀調を帯びていた。だからいまでも語り継がれている。与野党の対立を超えた人間的フェアプレーの精神が残っていた時代だったのか。いまはそれがない。

泉代表と岸田首相のやり取りに限ったことではないが、凶弾に倒れた安倍晋三元首相に対する慟哭(どうこく)の念や惜別の思いはいまの国会から少しでも感じられただろうか。国葬の手続きはどのように踏んだか、経費はいかに算出されたか、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関わり合いはどうかを一方が追及し、他方が弁解に終始した。国会審査の焦点は安倍氏から国葬や旧統一教会に完全に転換されてしまった。この種の次元に貴重な時間を割く日本の国会に、外国は尊敬の念を抱くか。

「信教の自由」侵害の懸念

安倍氏と旧統一教会の関係はいかにも深いかのような報道がなされているが、霊感商法を抑制する2度の法改正により、安倍政権下で被害額は大幅に減っているようだ。これはどう解釈するのか。

茂木敏光自民党幹事長は「(党所属国会議員と旧統一教会の関係についての調査)結果を重く受け止めている。率直に反省し、今後は旧統一教会と一切関係を持たないことを党内に徹底していく」と明言した。「一切関係を持たない」とどのような確約を議員から取るつもりか。「信教の自由は、何人(なんびと)に対してもこれを保障する」という憲法20条に抵触しないか。茂木発言は、仮に世論に阿(おもね)た軽い発言のつもりでも、世界の宗教に関わりを持ってくる。事の重大性をどれだけ認識しているか。

折からロシアは、択捉島と国後島を含むシベリア・極東地域で4年に1度の大規模軍事演習「ボストーク2022」をこれ見よがしに実施した。松野博一官房長官はこれまでと同じく「極めて遺憾だ」を繰り返すだけで、議員の大方は無関心だろう。知性とモラルと勇気を欠いた日本の国会こそ「戦後レジーム」の象徴である。(2022.09.12国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

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