2018年3月16日、米上下両院を全会一致で通過していた「台湾旅行法」がトランプ大統領の署名を得て成立した。中国政府が「米中関係のレッドラインを超える」と強く廃案を求めていた法案だった。意識的に何気ない名称を付されたこの法律が、なぜそれほど中国を刺激したのか。米国の議員やビジネスマンはそれ以前から頻繁に台湾を訪れていた。台湾側の訪米についても同じである。
ポイントは、同法が「米政府の全てのレベルの当局者が台湾側のカウンターパートに会うために台湾を訪れることを認めるべきだ」とした後に、ここには「閣僚レベルの国家安全保障当局者や軍の将官を含む」と特に強調していることにある。
すなわち国防長官や陸海空・海兵隊の将軍クラスを含む米軍当局者と台湾軍当局者の直接協議を促進することに、法の最大の特徴があった。
台湾当局者の訪米についても、「台湾の高官が米国入りすることを、そうした高官の威厳にふさわしい敬意を表しつつ、認めるべきだ」とした後に、米側が会談を持つカウンターパートとして「国務省と国防総省の当局者」を特記している。
この法律によって、米台の間では、軍当局者による踏み込んだ戦略面、作戦面の協議実施に法的裏付けができた。問題は日本である。
有事対応へ待ったなし
ペロシ米下院議長の訪台後、中国が日本の排他的経済水域にもミサイルを着弾させる軍事演習を行ったことなどから、安倍晋三元首相が強調した「台湾有事は日本有事、日米同盟有事」は一段と現実性を帯びてきた。そんな中、台湾有事を念頭に置いた日米台3者の防衛当局者による戦略・作戦協議の実施は待ったなしの課題となっている。ところが「日台」が欠けた環のままになっている。
日本版台湾旅行法を早急に作るべきだろう。実際、台湾側からは具体的に要請が出されている。来日した台湾議員団の団長、郭国文立法委員(国会議員に相当)は8月8日、日本の超党派議員連盟「日華議員懇談会」(日華懇)の古屋圭司会長(自民)に対し、法整備の重要性を訴え、日本版台湾旅行法の制定を提案した。郭氏は来日前のインタビューで、「安倍氏がいなくなり、今後の台日関係にいささか不安を感じる」と率直に述べてもいる。やはり個人に頼らない安定した法的枠組みが必要である。
超党派の議員立法目指せ
この種の法案は、政府による提出を待つと、いつまでも出てこないか、徹底的に骨抜きされたものしか出てこないのがオチである。有志議員が中心になり、超党派の議員立法として対処するのが正解だろう。
米議会の下院で台湾旅行法の提出者となったのは、スティーブ・シャボット議員(共和)だった(上院は対中強硬派の急先鋒マルコ・ルビオ議員)。シャボット議員は北朝鮮による拉致問題にも理解が深い。拉致議連幹部(現在会長)として毎年のように訪米し、関係者と意見交換をしてきた古屋氏とは旧知の間柄である。日本版台湾旅行法を制定し運用する過程で、日米台の政治家の連携も一層深めることが可能だろう。(2022.08.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)