安倍晋三元首相が暗殺された。最強の指導者を奪われたことへの不安、テロへの心からの憎しみと憤り、テロを許す国であってはならないとの国民の危機感が、暗殺直後に行われた参議院議員選挙で自民党に歴史的大勝をもたらした。
動画が映し出す弛緩した日本
安倍氏暗殺の現場を撮った動画には、わが国の弛緩しきった姿が写されている。1発目の銃弾は外れ、2.5~3秒後に放たれた2発目で、安倍氏はほぼ即死した。1発目と2発目の間、現場にいた警備担当のプロフェッショナル達は何の反射行動も取れず、突っ立っていた。彼らが慌てて動いたのは、2発目の弾で安倍氏が倒れてからだったのが動画から見て取れる。
その姿は日本国憲法前文と9条に重なる。即ち日本さえ平和を守り、悪事を働かなければ、世界の国々は日本に手を出さない、従って日本は軍備を最小限に、力の行使は慎重に、相手国を刺激しないように大人しくしているのがよい、というパシフィズム国家の姿だ。自衛隊を軍隊とせず、警察法の枠内でその持てる力も必要最小限にとどめるという憲法9条の精神に浸り切ったわが国の無力・非力をこの暗殺事件が炙(あぶ)り出した。
私たちは安倍氏という稀有(けう)な指導者を失ったが、安倍氏はその悲劇を通して私たちに強烈な意志を示した。課題解決も迫った。今のままの日本であってはならない、急展開する世界情勢の下で国家として生き残る為に日本はいまこそ自力で自国を守れる自立国になれ、と。命と引き換えのようにして示した安倍氏の危機感を多くの国民が感じ取ったのだ。それが自民党に歴史的勝利をもたらしたのだ。
日本を反戦国家に逆戻りさせるな
岸田文雄首相は今回の大勝を自らの力で勝ち取ったと考えてはならない。安倍氏は6回の国政選挙で勝ち続けた。選挙の度に在るべき国家像を問うた。日本の国柄に基づいた教育の重要性を強調した。穏やかながら雄々しい日本らしい現在と未来を築こうと呼びかけた。
それには何よりもまず憲法改正が必要だと繰り返した。言葉だけでなく、第1次安倍政権時の国民投票法制定に見られるように、憲法改正に必要な法整備もしてきた。改正原案も作成した。日本を守り世界の平和と安全に貢献するには、軍事的にも経済的にも強い国家であることが必須条件だと訴え、日本をあらゆる面で強化した。
こうした安倍氏の遺志を継ぐことが岸田首相の最大の務めだ。安倍氏に報いるために、厳粛なる国葬で安倍氏の御霊(みたま)に感謝し、日本を二度とパシフィズム国家の道に逆戻りさせてはならない。(2022.07.11国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)