【読書亡羊】「笑顔が多い政治家はこの人!」「『日曜討論』はガチ」木下健、オフェル・フェルドマン『政治家のレトリック』(勁草書房)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


なぜこうなるかについての言及はないが、投票率が高いということは国民が政治に危機感を持っていることの証左であり、ゆえに「笑ってる場合じゃないだろう」とマイナスの効果を生むのかもしれない。

メンツを守ろうとする政治家たち

本書は福岡工業大学社会環境学部の木下健准教授と、同志社大学政策学部のオフェル・フェルドマン教授の共著。政治家が戦略的に「どっちつかず」の回答を行っていることを指摘した前著の『政治家はなぜ質問に答えないか――インタビューの心理分析』(勁草書房)も面白かったが、今回はさらに数値化しにくい表情にも踏み込んで、政治家の話しぶりを分析している。

政治家にとって、インタビューの機会は自分の考えを視聴者、つまり有権者に届ける機会であると同時に、受け答えに失敗すれば社会的信用を失墜させる危険性と隣り合わせでもある。本書ではこれを「フェイスへの脅威」と呼び、いかに政治家がインタビュー時に自分の「メンツ」を守ろうとしているかを分析している。

そのためにBSフジ「プライムニュース」の反町理キャスターや、BS朝日「激論クロスファイア」の田原総一朗キャスターと政治家のやり取りが文字起こしされているが、「ツッコミが鋭い」印象の二人でも、実はそれほど厳しいツッコミはしておらず、むしろ全体を通じて〈比較的友好的で穏やかなコミュニケーションスタイル〉で接しているという。

もちろん質問によっては厳しいものもないではないが、政治家はするりとそうした質問を潜り抜け、あいまいな答えをすることで自身のメンツを保とうとする。「きちんと答えなければ次の質問でさらなるツッコミが待っている」のだが、こうした点で最も政治家にとって脅威の度合いが強い番組はNHK「日曜討論」だったと指摘されている。

実際、「日曜討論」に出演した国際政治学者の方々が、こんな会話を交わしている。

鈴木一人「日曜討論はガチで台本がありません。その場の瞬発力で一分以内に話をまとめるという無理ゲーです」
小泉悠「何の話を振られるかさえ教えてもらえないですからね」
東野篤子「かつては日曜討論に台本があった時代もあったのですかね。実際には台本なしで、『だいたいこんな内容で』という簡単な箇条書き3点ぐらいを書いた紙を直前にもらうだけですね。話す順番もわかりませんし」

政治家はなぜ質問に答えないか:インタビューの心理分析

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