ドイツのショルツ首相はロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵略戦争に敏感かつ果敢に反応した。核大国が核を脅しに使い、核拡散防止条約(NPT)体制が事実上崩壊した中で、ドイツも欧州も一変した。だが、わが国はロシアと中国、北朝鮮に囲まれ、世界で最も深刻な脅威に直面するというのに、周回遅れの対応を続けている。
専守防衛では国を守れない
自民党の安全保障調査会が政府への提言をまとめた。今後5年を目途に国防費をGDP比2%に引き上げるなど、評価すべき点もある。しかし国防の思想は旧態依然だ。その筆頭が「専守防衛」政策の維持である。敵側に攻撃の意思があり、具体的に着手した段階で、日本国はこれを武力攻撃事態と認定して反撃するが、反撃は「必要最小限」の範囲内とされた。必要最小限の範囲は国際環境及び科学技術の進歩に応じて決まるため、安全保障環境が厳しくなれば、必要最小限の軍事反攻の範囲も拡大するという。しかし、専守防衛のもたらす結果を日本人はよく考えるべきだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は4月24日、地下70メートルの地下鉄の駅で内外メディアの記者を前に「我々が十分な武器を得られれば一時的にロシアに占領されている国土を取り戻せる」として、より多くの武器・装備の援助を求めた。必要最小限では駄目なのだ。国土、国民を守るには、十分な装備により全力で当たることが大事である。私たちが日々目にしているウクライナの悲劇こそ、専守防衛の思想がもたらす現実ではないのか。
わが国の「専守防衛」は、憲法9条2項の「戦力はこれを保持しない」という考え方から生まれている。加えて警察予備隊から発展した自衛隊は、憲法上も法体系上も軍隊ではなく、警察権の枠内にある。建前上、自衛隊は軍隊ではなく、持てる装備も最小限であるため合憲だ、専守防衛思想を守ることが憲法の精神に適うと説明されてきた。噴飯ものの取り繕いの説明ではないか。日本は決して第二のウクライナになってはならないが、その第一歩が専守防衛の放棄であろう。
危険と背中合わせの非核三原則
非核三原則について、自民党の提言は従来の考え方を踏襲するとした。だが、核の使用を示唆するロシアが侵略戦争を起こし、ロシアを擁護する中国が日本への恫喝を視野に入れているいま、岸田文雄首相の「非核三原則は国是」という考え方は、日本に三たび広島の悲劇をもたらす危険と背中合わせの受け入れ難いものだ。
日本は空想的平和主義を捨て去る時だ。現実的、合理的な安全保障政策を採用し、十分な軍事力で敵対勢力への抑止力を効かせることだ。核は使える時代になったと言われるいま、日本自身が核戦力をどのような形で持つべきか持たざるべきかを決め、その前提として米国の核による拡大抑止が機能していることを訓練などで実証しなければならない。何よりも9条2項の削除と、自衛隊を国軍と定義する憲法改正が欠かせない。(2022.04.25国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)