経済・防衛同時デフレから脱出せよ|田村秀男

経済・防衛同時デフレから脱出せよ|田村秀男

抜き差しならない国家危機に直面する日本は、軍備最小限、緊縮財政の戦後レジームを放棄し、まずは財政主導で経済再生を果たすしかないが、実行する政治意思さえあれば、それは十分可能だ。


25年間にも及ぶ日本のデフレーション(収縮)は国内総生産(GDP)のみならず、防衛支出にも及ぶ。経済と軍事が二本柱である国力が衰退し続けている。対照的に全体主義中国の国力膨張はめざましく、日本を飲み込む勢いだ。日本が安全保障を確保するためには、経済・防衛デフレから脱出するしかない。

「戦後レジーム」の呪縛

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、日本の軍事支出は2020年に491億ドルで1995年比1.6%減、世界銀行統計のGDPは5兆ドル余りで同8.8%減、いずれもデフレだ。中国の軍事支出は2543億ドルで同20.3倍、GDPは14.7兆ドルで同20倍、いずれも日本を圧倒している。

中国は2001年12月の世界貿易機関(WTO)加盟、さらに2008年のリーマン・ショック以降、経済成長に弾みをつけ、それを上回る速度で軍事支出を拡大してきた。中国は国内市場に日米欧企業を誘引すると同時に、海外での企業買収などによって軍事と切り離せない情報技術(IT)を取得し、サイバー戦能力でも米国に対抗できるまでになった。

日本の経済・防衛デフレをもたらしているのは、米ソ冷戦時代に築かれた政策の枠組みである。1947年施行の戦争放棄の新憲法と財政均衡を義務づける財政法、さらに日米安全保障条約に基づいて米国の核の傘に入り、財政均衡を重視して防衛費をGDPの1%を上限としながら経済を安定成長させるというものだ。この「戦後レジーム」は、1990年代初頭の米ソ冷戦終結後も歴代の政権を呪縛してきた。

ソ連消滅と同時期に日本では平成バブルが崩壊し、経済に激しいデフレ圧力を加えた。家計の消費意欲と企業の国内投資意欲が減退しても、政府は財政均衡にこだわり続け、防衛費の1%枠も放置された。その結果が、四半世紀にも及ぶ経済・防衛デフレである。

中国の習近平政権は経済力と軍事力をバックに、海洋権益拡大、拡大中華経済圏構想「一帯一路」の推進など対外膨張策に邁進する。台湾には併合に向けた軍事圧力を強め、沖縄県尖閣諸島周辺での領海侵犯を繰り返す。日本のほうは稼ぐ能力の萎縮のために円の実質的な価値が50年前と同じ水準に落ち込んだ。逆にマネーパワーを巨大化させた中国は北海道などの土地を二束三文で買いたたく。

民間余剰資金を投資財源に

抜き差しならない国家危機に直面する日本は、軍備最小限、緊縮財政の戦後レジームを放棄し、まずは財政主導で経済再生を果たすしかないが、実行する政治意思さえあれば、それは十分可能だ。国内で使われずにたまっているカネは家計、企業合わせて約1500兆円で、GDPの3倍近くに達し、世界最大の水準だ。政府が国債を発行して余剰資金を吸い上げ、デジタルなど成長分野と防衛に継続的に投資するプログラムを組み、民間のアニマルスピリッツ(血気)を呼び覚ますのだ。(2022.01.24国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

9月12日(木)に告示され、27日(金)に開票が行われる自民党総裁選。私が選対事務局長を務める青山繁晴さんは、8月23日に記者会見を行った。しっかりと推薦人20人を9月12日に確定できるよう頑張りたい。(写真提供/産経新聞社)


安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

本日は安倍晋三元総理の命日。安倍元総理が凶弾に倒れてから2年を迎えた。改めてご冥福をお祈りするとともに、非道な暗殺を満身の怒りをもって非難する。


最新の投稿


【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

突然、月8万円に……払いたくても払えない健康保険料の実態の一部を、ジャーナリスト・笹井恵里子さんの新著『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より、三回に分けて紹介。


【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

税金の滞納が続いた場合、役所が徴収のために財産を差し押さえる場合がある。だが近年、悪質な差し押さえ行為が相次いでいるという(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。


【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

いまもっぱら話題の「103万円、106万円、130万円の壁」とは何か。そしてそれは国民健康保険料にどう影響するのか(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。


【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心  キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心 キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!