日本に必要な攻撃能力の構築|島田洋一

日本に必要な攻撃能力の構築|島田洋一

日本は専守防衛の枠を捨て、日本を攻撃すれば自らの司令系統中枢も破壊されると思わせるだけの、小規模ながら残存性の高い抑止力を構築していかねばならない。同じ発想に立つ英国を、誰も「無責任な軍国主義国家」とは呼ばない。


1月5日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルについて、防衛省は、高度50キロ、飛距離500キロ、速度はマッハ5を超える新型との分析結果を示した。日本を射程に収め、核弾頭を搭載できる極超音速ミサイルが北朝鮮によって配備されるのは時間の問題と見なければならない。一方で、中国の同種ミサイルの開発は急速かつ大規模に進んでいる。

専守防衛は時代遅れ

目をふさいではならないのは、飛行の最終段階で変則軌道を取る極超音速ミサイルの迎撃は現在の技術でほぼ不可能という事実である。核ミサイルに関する限り、世界は攻撃側が圧倒的に優位の時代に入った。攻撃側が優位の時代には、狭い意味の防御は効かず、報復能力を明示することで相手の攻撃を抑止する、すなわち攻撃力で攻撃に対抗するしかない。

日本が金科玉条とする「専守防衛」は、例えば城壁を登ってくる敵を上から石を落とせば防げた防御側優位の時代にしか成り立たない。攻撃側が優位を拡大する時代に、日本がなお専守防衛イデオロギーにとらわれ、ミサイル迎撃システムに幻想を抱き続けるならば、第2次大戦前のフランスの対ドイツ要塞線、マジノ線の構築と同様に、貴重な防衛費の浪費に終わりかねない。

特に独裁政権に抑止力を効かすには、司令系統中枢に耐え難い被害を与える能力を持つことが決定的に重要となる。周辺の民衆にできるだけ被害を与えず、敵の指導部を無力化する貫通型の強力なミサイルを、残存性の高い潜水艦に必要最小限配備するというのが、日本にとって常識にかなった抑止モデルと言えるだろう。核保有国の英国が採用してきた抑止戦略に近い。国民の命を真剣に考える政治家なら、そうした議論に踏み込まねばならない。

残存性高い小規模抑止力を

従来、敵基地攻撃力の保有を主張する自民党議員たちも、日本の言論状況をおもんばかり、敵基地攻撃と言っても、ミサイル着弾を日本の領土内で阻止するか、相手国領土内で阻止するかという場所の違いだけで、専守防衛の枠を外れるものではないとの解釈を取ってきた。

しかしこの議論は、皮肉なことに、最近、親中派によって足をすくわれるに至っている。ミサイルの移動式発射台が一般化したため、発射台を攻撃するという発想は古いというのである。親中派の本音は、日本独自の抑止力保有に踏み込むことで中国を刺激したくないというところにあるので、本質的に不誠実な議論であるが、実際、移動式ミサイルの動きを常時把握して、即座に無力化できるだけのシステムを構築・維持しようと思えば膨大な予算が必要となり、財政的に不可能である。

日本は専守防衛の枠を捨て、日本を攻撃すれば自らの司令系統中枢も破壊されると思わせるだけの、小規模ながら残存性の高い抑止力を構築していかねばならない。同じ発想に立つ英国を、誰も「無責任な軍国主義国家」とは呼ばないだろう。(2022.01.11国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


『こんなにひどい自衛隊生活』、誕生のきっかけとなった「少佐」との出会い|小笠原理恵

『こんなにひどい自衛隊生活』、誕生のきっかけとなった「少佐」との出会い|小笠原理恵

「なぜ、自衛隊の待遇改善問題に取り組み始めたのでしょうか」。時々、人から聞かれる。「1999年3月に発生した能登半島沖不審船事件に携わった、幹部自衛官とSNSを通じて友人になったからです」と私は答えている。彼のことを私たち、「自衛官守る会」の会員は「少佐」と呼んでいる――。(「まえがき」より)


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」――アメリカに本部を置く北朝鮮人権委員会が発表した報告書に記された衝撃的な内容。アメリカや韓国では話題になっているが、日本ではなぜか全く知られていない。核開発を進める独裁国家で実施されている「現代の奴隷制度」の実態。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


最新の投稿


【今週のサンモニ】アクロバティックな「トランプ叩き」はやめましょう|藤原かずえ

【今週のサンモニ】アクロバティックな「トランプ叩き」はやめましょう|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】勘違いリベラル番組、今年もスタート|藤原かずえ

【今週のサンモニ】勘違いリベラル番組、今年もスタート|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「自分の家でしか見た事がないコレクション」

なべやかん遺産|「自分の家でしか見た事がないコレクション」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「自分の家でしか見た事がないコレクション」!


【今週のサンモニ】年の瀬に傲慢溢れるサンモニです|藤原かずえ

【今週のサンモニ】年の瀬に傲慢溢れるサンモニです|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】中国は「きれいなジャイアン」になれるのか  エルブリッジ・A・コルビー『アジア・ファースト』(文春新書)

【読書亡羊】中国は「きれいなジャイアン」になれるのか エルブリッジ・A・コルビー『アジア・ファースト』(文春新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!