令和4年の日本は有事の真っ只中だ。世界大激変の中で、日本国首相には歴史的使命がある。1億2000万人余りの真面目な国民の知恵の力、技術力、経済力、軍事力、勇気の全てを活かして、より良い日本、より良い世界を創るのに貢献する責任だ。岸田文雄首相の信念と実行力が問われる1年となる。
力強さに欠けた100日
11日で政権発足から100日を迎えたが、首相の言葉や決断には、日本と世界に貢献する力強さが未だにない。むしろ7月10日予定の参議院議員選挙までは波風を立てない政権運営に徹する慎重姿勢ばかり目につく。たとえば中国政府の不興を買い、あるいは朝日新聞を含むリベラルメディアの批判を受けかねない課題を先延ばしする、といった傾向だ。
中国政府によるウイグル人弾圧への非難決議の扱いがその一例だ。表向きは連立相手である公明党の反対ゆえに潰されたとされているが、事実は異なる。元々国会決議の案文には非難対象国として中国の国名がなかった。公明党はさらにそこから「非難」という言葉を削除する修正を求め、自民党が受け入れた。殆ど無意味な文章となったが、それでも日本国としての立場表明が必要だとして、決議を採択する方向になっていた。しかし、それさえも昨年12月15日、突然却下された。複数の政府・与党関係者は岸田首相が最終決断を下したと証言する。
北京五輪の外交的ボイコット表明も、「中国を刺激してはならない」との慮りが米欧諸国に比べて大幅な遅れにつながった。
中国の脅威に対処するための自衛隊強化に関して、防衛費を国内総生産(GDP)比2%以上にすると首相は公約済みだ。補正予算では防衛費を積極的に増やしたが、来年度予算全体では実は防衛費はほとんど増えていない。日米の外務・防衛担当閣僚による「2+2」の協議で「日本はミサイルの脅威に対処するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」と共同文書で発表したことが敵基地攻撃能力を念頭に置いたものだと解釈されたが、結局、岸田政権は敵基地攻撃能力の保持を明言していない。
必要な中国抑止の意志
国益に関わる重要事であっても、摩擦を起こしかねない案件には一切手をつけず、7月の選挙を乗り切りたい、政権の長寿を実現したい、というのが首相の考え方か。有事のいま、それは間違いだ。
激しく変化する世界情勢の下で、インド太平洋の平和と安定に米国と共に大いに積極的に動かずして、日米同盟の意義はあるのか。平和も安定も「中国を刺激しない」という戦略ではなく、中国の蛮行を抑止する強い意志と力によってもたらされる。国民はそのような戦略を実現する政権をこそ、後押しするだろう。( 2022.01.11国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)