バイデン米政権が来年早々公表する「核態勢見直し」(NPR)に核先制不使用を盛り込むことの是非について、同盟国への打診が行われていると報道されている。同盟国の日本としては、米国による核先制不使用宣言を絶対に認めるべきでない。
核先制不使用宣言は、中国、ロシア、北朝鮮が核兵器と同じ大量破壊兵器である化学・生物兵器を使用しないようにするための抑止力を放棄することになり、結果としてこの3国を喜ばせることになるからである。
核は化学・生物兵器の抑止力
米国で核先制不使用の問題が持ち上がるのは、必ず民主党政権である。2010年のNPRは、民主党のオバマ大統領が「核なき世界を目指す」とチェコのプラハで演説したことによってノーベル平和賞を受賞した後に公表されたため、「非核攻撃に対する核兵器の役割を減らしていく」といった表現を盛り込んでいる。
当時、副大統領であったバイデン氏は、プラハ演説を実行に移すためのスピーチを2010年2月に米国防大学で行っており、その写真が同年4月に公表されたNPRに掲載された。
バイデン政権下で出されるNPRにも、核先制不使用に関する前のめりの記述が採用されるものと予測される。
しかし、米国防総省が今月公表した「中国の軍事・安全保障動向に関する報告書2021」は、中国が生物兵器禁止条約や化学兵器禁止条約に違反して引き続き化学・生物兵器を開発している可能性を指摘した。
また、米国防情報局が先月公表した報告書「北朝鮮の軍事力」は、化学兵器禁止条約に加入していない北朝鮮が金正恩総書記の異母兄である金正男氏を殺害するのに化学兵器であるVX神経剤を使用し、生物兵器も開発していると記述している。
さらに2018年3月に起きた英国での元ロシア情報機関員襲撃事件では、ロシアで開発された軍用化学兵器ノビチョクが使用されたとして英国はロシアを非難、欧米諸国がロシア外交官を追放している。
中露朝3国のこうした現状から見て、米国が核先制不使用を宣言することは愚策であり、日本はこれを阻止しなければならない。
今こそ非核三原則見直しを
一方、2010年のNPRには「核兵器のない世界へ(Toward A World Without Nuclear Weapons)」という表題の節が最後に設けられているが、それと同じ題名の本を岸田文雄首相は昨年出版した。核廃絶の理想を掲げるのはいい。しかし、日本が究極の安全を米国の核抑止力に頼りながら、非核三原則の下で核兵器の日本国内への持ち込みさえ認めないのは明らかに矛盾している。こうした身勝手な主張はいつまでも通用しない。日本は非核三原則見直しへ向けた議論を開始すべき時に来ている。(2021.11.15国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)