10日に河野太郎氏が自民党総裁選挙への立候補を表明し、候補者は岸田文雄氏、高市早苗氏を含めた3人となった。これまでになく厳しい安全保障環境の下で、3候補の国家安全保障に取り組む姿勢や政策について評価してみたい。
イージス・アショアを葬った河野氏
昨年6月、当時の河野防衛相は秋田県と山口県の2カ所で進められていた陸上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の建設計画を、代案も示さないまま取りやめた。理由は、迎撃ミサイル発射後、第1段ロケットの燃焼後空タンクを配備地である陸上自衛隊演習場内に落下させられる保証がないからだという。
仮に核弾頭搭載の弾道ミサイルが日本国内に落下した場合、数十万、数百万の命が失われる。全く比較にならない事象を理由に迎撃システムの配備計画をなぜ中止したのか、いまだに理解できない。
イージス・アショアで予定されていた迎撃システムは、昨年末に艦載されることになったが、設計が間に合わず、今年の防衛省の概算要求では計上されていない。このため、実際の配備時期は当初の予定より何年も遅れる。これで北朝鮮や中国、あるいはロシアの核攻撃の脅しに対応できるのか。
折しも7月、「日本が台湾有事で一兵でも送れば、直ちに日本を核攻撃する」というナレーションが付いた中国の軍事愛好家集団制作の動画がインターネットを通じて中国全土に拡散した。
河野氏の防衛相時代、自衛隊グッズのオークションといった人気取り行事は多かったが、同氏の政策が日本の防衛のためにプラスとなったかといえば、マイナスの方が多かったと言わざるを得ない。
核禁条約を称賛する岸田氏、対中政治戦に敏感な高市氏
一方、岸田氏は、昨年上梓した『核兵器のない世界へ―勇気ある平和国家の志』という本の中で、核兵器禁止条約を「理想を追い求める意味で素晴らしい」と評価する平和主義者である。それでは北朝鮮や中国の核の脅しにどう立ち向かおうとしているのか、具体策を聞きたい。
また、中国の「戦わずして勝つ」政治戦は経済界、メディア、学者・学生の抱き込み等で水のようにじわじわと浸透してくる。こうした武力を伴わない中国の政治戦に対し、高市氏は総裁選出馬表明で、経済安保包括法の制定、入国者スクリーニング(身辺調査)の実施、サイバーセキュリティ強化、インテリジェンス機能の充実、対外的な情報発信の強化、日本国内の中国共産党組織への警戒等の的確な政策を掲げている。河野氏が中国外務省の女性報道官とのツーショット自撮り写真をツイッターで発信し、「微笑外交」に乗ってしまう危うさがあるのとは違う。
高市氏には数年前、安全保障上重要な土地を外国資本が購入するのを規制する外国人土地規制法を制定すべく総務相時代に努力した経緯を議員事務所で聞き、また今年7月には憲政記念館で講演を拝聴したが、他の2候補には窺えない、しっかりした国家観を持っていると感じた。(2021.09.13国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)