史上初の日米豪印4カ国(クアッド)首脳会議がオンラインで開催され、インド太平洋地域における民主主義国家の結束を印象付け、対中抑止への一歩を刻んだことは意義深い。自由世界の秩序に挑戦する中国は、米国不在で生じた空白を力で埋めようとしてきただけに、クアッドの結束や拡大を最も警戒してきた。4カ国は今後、外相会議のほか、年内に対面での首脳会議を開催して地域安全保障の枠組みを探る。
同盟関係の強化を目指すバイデン米政権は、対中包囲網との印象を避けたいインドに配慮し、武漢発の新型コロナウイルスに対するワクチンの製造・配布支援、重要技術に関する協力、気候変動対策など幅広い議題設定で4カ国の結束を優先した。とくにワクチン支援では、インドが米国製薬大手のワクチンを製造し、日米豪が資金面から支援することで合意した。戦略物資であるワクチンの供給で合意できたことは、4カ国協力の政策モデルになるだろう。
合同海軍演習を定例化せよ
「クアッドの精神」と銘打った共同声明は、4カ国が「自由で開かれたインド太平洋のための共通のビジョンの下で結束している」として、民主主義の価値観、法の支配を強調し、中国を念頭に「威圧によって制約されない地域」にすることを誓約している。声明はさらに「東シナ海および南シナ海でのルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対応する」と中国をけん制した。菅義偉首相が、中国海警局の艦船による尖閣諸島周辺の領海侵入を念頭に「一方的な現状変更の試みに強く反対する」と非難したのは適切であった。
すでにクアッドは昨年11月、13年ぶりにオーストラリアが参加して日米印と海軍合同演習「マラバール」を実施しており、これを定期演習として定着させるべきだろう。昨年はまた、「クアッド・プラス」として韓国、ベトナム、ニュージーランドを加えた7カ国がコロナ対策のビデオ会議を実施しており、政策協調の枠を広げている。
バイデン政権は、インド太平洋軍のデービッドソン司令官による上院軍事委員会証言のように、中国の軍備増強によって「通常戦力による対中抑止力が崩壊しつつある」との認識を持っている。従って、同政権は今後、クアッドを核に中国軍に対抗する「太平洋抑止構想」の実現を徐々に主導していくだろう。