経済運営に一抹の不安を
新首相・菅義偉が誕生した。新政権発足につきものの御祝儀相場の報道が続くが、総裁選の討論会を見ていて感じた二つの疑問を記しておきたい。
9月10日夜、民放のテレビ番組で、菅官房長官は「消費税増税」について問われ、こう答えた。
「引き上げるという発言をしないほうがいいだろうと思ったが、これだけの少子高齢化社会で、どんなに私たちが頑張っても人口減少を避けることはできない。将来的なことを考えたら、行政改革を徹底して行ったうえで、国民の皆さんにお願いして消費税は引き上げざるを得ない」
これを聞いて「あれっ? ちょっと違うんじゃないの?」と思った人は少なくあるまい。小欄もその一人だ。
菅が総裁選の看板に掲げたのは「安倍政治の継続」だ。周知のように、安倍は消費増税を嫌い、二度にわたってその実施を拒否した。にもかかわらず二度の消費増税をせざるを得なかったのは、財務省や与野党の増税派の圧力による。
自民党内には財務省OBがゴッソリいる。安倍が一度目の消費増税(5%→8%)を渋ったとき、財務省の主導で与野党連携の「安倍降ろし」が企てられた。
増税によって財政赤字を減らそうとする財政規律派に対して、安倍はアベノミクスによる税収増を意図して経済再生派と呼ばれる。安倍政権の7年8カ月の税制はこの両派の確執に終始した。
その間、安倍の女房役を務め、安倍政治の継続を自称する菅義偉は、当然のこと消費増税を嫌い、経済再生で財政健全化を図ると主張すべきだ。なのに、いとも簡単に消費税を引き上げる? おまけに「少子高齢化による人口減少」で税収減は避け難い、よって消費税を引き上げざるを得ないだと?
ならば人口減少に比例して消費税を引き上げていく算段か? 経済は縮小の一途を辿るだけだ。そもそも人口減少にもかかわらず、先進国のなかには経済成長を示す国はいくつもある。
一夜明けて、菅は右の発言を修正した。よほど反論・疑問が寄せられたとみえる。
「(昨夜の発言は)あくまで将来的な見通しだ。政権発足以来、経済再生なくして財政健全化なし、こうした考え方でアベノミクスを推進し、安倍総理はかつて『今後10年くらいは(消費税を)上げる必要はない』、このように発言しています。私も同じ考えです」
最初からそう答えれば何の問題もない。なにやら経済運営に一抹の不安を覚えたのは小欄だけではあるまい。
外交は手品ではない
ところで立憲民主党の国対委員長・安住淳が「消費税は今後の争点になる。消費税解散になるかも」という。合流新党で政調会長に就いた泉健太は枝野幸男と争った代表選で「一定期間、消費税の凍結」を主張した。どうやら立憲民主党は消費税を次期国会の争点にする構えだ。
しかし、そもそも「三党合意」で消費増税を立法化して安倍に押しつけたのは旧民主党の野田佳彦政権だ。忘れてはいけない。野田はこの「消費増税」と「定数是正」の二つのハードルを安倍政権に仕掛けて退場した。
早晩、安倍政権が二つのハードルに引っかかってコケると算段したはずが、なんと7年8カ月、憲政史上最長政権になるとはユメ想像もできなかったに違いない。
話を戻して疑問の二つ目。菅は内閣官房長官を7年8カ月もやった。内政の万般については把握しているに違いない。問題は経験ゼロの外交だ。
「私には安倍首相のような首脳外交はできません。でも私なりの外交姿勢は有り得る、自分型の外交姿勢を貫いていきたい」
と述べている。自分流の外交とは何か。菅はこうも言った。
「日米関係を基軸にマルチ外交を考える。対中包囲網には加わらない」
米中対決の切迫度が増している現在、マルチ外交=全方位外交なんぞあり得るのか。ポンペイオ国務長官は、オーストラリア、インド、ニュージーランド、さらにはイギリスやEUに向けて中国包囲網の形成をハッキリと呼びかけている。これを拒否しながら日米関係を良好に保てるのか。
韓国の文在寅政権はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を延長する・しないでゴネたあげく、昨年11月、こともあろうに中国と防衛協定を結んだ。本人はマルチ外交のつもりだろうが、これでアメリカの対韓不信を決定的なものにした。外交は手品のようにはいかない。文在寅の轍を踏むなかれ。