公約の「7つの0」、ゼロは公約というよりも目標であって、「ゼロを目指すことが大事」という小池都知事の弁は間違いではありませんが、具体的にゼロにするための取り組みがあるかと言えばそれは見えず、スローガン先行の感が否めないのが正直なところです。
「スローガン先行で、パフォーマンスばかり」を象徴しているのが、築地市場移転問題でしょう。
知事選で小池氏は市場移転を「立ち止まって考える」と宣言し、その後、盛り土の欠落などがクローズアップされて、すったもんだの挙句、二年遅れての豊洲市場開場となった。
アンケートでは、土壌汚染対策の追加や環状二号線開通の遅れなど、知事の「総合的な判断」について86.5%が、また、知事の「築地は守る、豊洲は生かす」の基本方針について89.7八九・七%が評価しない、と答えています。
「二年の時間と無用な費用を投じただけであり、市場業者の寿命が縮んだ。それ以前のプロセスがあたかも間違っているかのような印象操作は都政を傷つけた。最終的には方針を踏襲しただけ。築地を守る取り組みは何ら行っていない」(40代、本庁課長代理級)
「二つの市場が成り立つことはあり得ない。聞こえの良い言葉で世論を動かした責任は重い」(40代、本庁課長級)
「知事就任前からオリ・パラに向けて環2を何とか間に合わせようとした所管の思いと努力を無駄にした罪は重い。レトリックや屁理屈で逃げた感が否めない」(50代、本庁課長級)
厳しい批判ばかりで、これは都職員の多くも同じ思いでしょう。
今年三月、都政新報社から元都中央卸売市場次長だった澤章氏の『築地と豊洲』という本を出しました。著者が小池都知事の発言と指示に翻弄されながらも、六千億円かけた豊洲市場を何とか有効活用したいと奮闘した記録です。本書のなかに、こんな場面があります。築地市場のままか、豊洲市場に移転するか、都知事の決断を待っているところで──。
正午のNHKニュースが始まる。トップニュースだった。
「『築地に市場機能確保』方針固める」
全身から力が抜けた。
知事は築地を選んだ。だがしかし、である。都庁の事務方トップの面々が雁首そろえた挙句、都政の最重要課題の最重大決定をテレビのニュースで初めて知ったのである。これほど滑稽な光景はない。これほど屈辱的なことはない。我々は完全に蚊帳の外に置かれたのだ。その場にいた全員がそう痛感した。
都知事と都職員との関係が全く築けていないことが明確にわかる場面です。都職員は表層的ではなく、こういった小池都知事の根っこの部分を見ているからこそ、厳しい評価になったのだと考えられます。ちなみにこのあと、「築地は守る、豊洲は生かす」のキャッチコピーが発表されました。
物足りないコロナ対策
直近の新型コロナ対策ではどうか。
JX通信社による世論調査では、小池都知事の対応を「高く評価する」 「どちらかと言えば評価する」と答えた人の割合は合わせて76.6%。東京オリンピック・パラリンピックを開催したい思いがあったために、延期決定前は判断や対応が極めて鈍かったのはたしかですが、延期決定後は一定のスピード感をもって対応しています。私も、未知とのウイルスとの戦いでもっとも感染者を抱えている都市のリーダーとしては、それほど失敗はなく対応しているようには思いました。
しかし、たとえば大阪府の吉村洋文知事に比べると、小池都知事の対応は物足りないと言わざるを得ない。東京都は感染者が多く、他の自治体よりも率先して動かなければならないはずです。にもかかわらず、後手後手に回っている印象は否めません。
また、休業要請に応じる店や施設への支援金は、都庁内では慎重な判断をという声もあったのですが、東京の経済を守るという観点から都知事が決断した。”バラマキ”との批判もありますが、個人的には第一弾はこれでよかったと思います。が、第二弾以降は店や施設の状況によって対応を変えていく方式を取るべきだったのではないか、と考えています。
それでも、東京都は9000億円超の財政調整基金を抱えていたからこれができましたが、他の近隣県は無理で、足並みがそろわなかった。実は、ここが一番の問題です。つまり、近隣県との調整がうまくいっていない。
休業要請に関しても、都が率先してやるのか、それとも周りの県と併せて一斉に動くのか、そういったすり合わせなどの動きがたいへん鈍かった。近隣県は東京への、また東京からの移動が多数ありますから、そういう状況を考えても周辺ときちんとコミュニケーションを取り、先駆的な取り組みを行い、それが全国に広がっていく──そんな動きがあってもよかったように思います。
これは今回に限らず、小池都政の致命的な弱点と言えます。すなわち、外部とのパイプが細くて連携がとても弱い。これは近隣県だけでなく、国に対しても同様です。