そもそも検事は行政機関である法務省の職員であり、従来、検事総長などは内閣が任命することになつてゐるのであるから、内閣が場合によつては任期を延長したからといつて三権分立を揺るがすなどといふやうな大問題ではない。それどころか、検察官の人事について、内閣の関与を許さず検察庁独自で決定することになれば、それこそかつていはれた「検察ファッショ」になりかねない。
今回の議論は、戦前の統帥権干犯問題との類似性がある。統帥権干犯問題は、1930年のロンドン海軍軍縮会議で妥協した案に反対した軍部の一部と結託した政党政治家が、軍縮を認めることは天皇の統帥権を侵害するものであるとして大問題に発展させ、その後の憲法解釈をゆがめる結果になつたのである。
幹部検察官の定年延長の必要性について内閣の裁量をどの程度認めるべきか、粛々と議論すべきであり、問題を大きくして安倍内閣批判と結び付けようとするのは、議論ではなく政争と言ふほかない。 (2020.05.18 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
国基研副理事長・弁護士。1942年生まれ。早稲田大学第一法学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了。弁護士登録(東京弁護士会)の後、スタンフォード・ロー・スクール卒。専門は民亊法学、労働法。東史郎の南京大虐殺関連の書籍に関する名誉棄損訴訟の原告弁護人、百人斬り訴訟の原告側弁護団長、朝日新聞を糺す国民会議弁護団にも加わっている。「昭和の日」ネットワーク副理事長、新しい歴史教科書をつくる会副会長、國語問題協議會会員(監事)。著書に『反日勢力との法廷闘争―愛国弁護士の闘ひ』(展転社)、共著に『新地球日本史』第一巻(産経新聞ニュースサービス)、『日本国憲法を考える』(学陽書房)、『不動産媒介の裁判例』(有斐閣)など。