「勝手知ったる」靖国でも、学生たちの率直な質問や関心の持ちようによって、「言われてみれば確かに、どう説明すればいいかわからないな」と気づかされる場面も多い。
〈エーレイって何ですか?〉といった率直すぎる質問にはドキッとする面もあるが、著者の丁寧な解説により〈「英霊」は中国古典の中で、優れた人の霊魂という意味であったものが、日本では靖国神社成立後……原義にはない戦死者のことを指すようになった〉ことを改めて学ぶことができる。
また、著者の「戦争体験者が減る中で、どのように経験を語り継いでいくのか」という問題意識は強い。九段周辺に点在する各施設を〈記憶の貯蔵庫〉と捉え、先の時代にまで経験と記憶、そして教訓を手渡していくための拠点と考えていることも伝わってくる。
林氏の認識は必ずしも「保守派的な歴史観」ではないと思われるが、学生とともにまずは見てみよう、考えてみようという姿勢から始まっているフィールドワークの成果をまとめたものであるだけに、保守派の読者の方々にも読みやすい内容になっている。
こうしたトーンから先の戦争についての被害と加害の両面にアプローチすることこそが、戦後80年を過ぎた日本社会には求められているのではないかとも感じる。
「あの戦争」の評価を語る前に、まずは実相を知るべきであり、そのための施設は九段一帯に揃っている。虚心坦懐に、この地域を本書片手にもう一度ぐるりと巡ってみるところから始めたい。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

