要人警護のプロが語る、事件に巻き込まれない方法|小笠原理恵

要人警護のプロが語る、事件に巻き込まれない方法|小笠原理恵

1月22日、JR長野駅前でバスを待つ男女3人が相次いで刃物で殺傷された事件。死亡した49歳の男性は、司法解剖の結果、胸と背中の2カ所に刺し傷があり、死因は失血死。胸の刺し傷は心臓にまで達しており、抵抗の際につく傷や防御創がなかったことから、突然襲われた可能性が高いという。北九州のマクドナルド店内での中学生男女の殺傷事件など、昨今、凶悪な事件が立て続けに起きている。国際ボディーガード協会副長官でもある要人警護のプロ・小山内秀友氏に、事件に巻き込まれない対処方法を聞いた。


プロの考察①突然起きた事件ではない

長野駅前3人殺傷事件についてメディアは「突然起きた無差別な犯行」という言葉をよく使用したが、実はそうではない。犯人は、20分以上も前から長野駅前にいた。近くの防犯カメラに写った犯行直前の犯人は、あきらかに不審な行動をしていた。 犯罪行為やテロ行為は、犯人が実行に出た時に被害が発生する。しかし実際には、犯人の行動はもっと前から始まっていることが多い。

例えば、路上でカバンを窃盗する「ひったくり」は、他人のカバンをひったくった瞬間に「窃盗行為」という犯罪が成立する。しかし、ひったくりを行う犯人の行動はもっと前から始まっているのだ。

被害者は銀行のATMでお金を引き出している時から見られ、銀行から出て歩き始めた時から尾行されている。そして犯人にとって「近づきやすい」「盗りやすい」「逃げやすい」という有利な条件が整った時に、犯人は被害者に近づき、「ひったくり」という行為に至る。

一般の人は、このひったくりという窃盗行為に対して、「鞄を襷掛けにする」や「自転車のカゴにネットをかぶせる」といった盗られにくくする防犯行動をとる。しかし、これでは犯人がひったくろうとする行為を防ぐことはできない。大切なことは、ひったくりに至る前の犯人の一連の不審行動に気づき、ひったくりの行為そのものを未然に防ぐことだ。

今回の長野駅前殺傷事件も同じだ。 突然、犯人は駅前に現れ、同時にバス停にいた人たちに攻撃を始めたわけではなかった。殺傷という犯罪行為を始める前の事前行動(専門用語でPINs)があったはずだ。この犯罪行為の被害者や周囲の人たちは、この犯人のPINsに気づいていなかったために、「突然起きた事件」のように感じているのだ。

JR長野駅前の3人殺傷、黙秘続ける46歳男を殺人未遂容疑で再逮捕

https://www.yomiuri.co.jp/national/20250215-OYT1T50103/

【読売新聞】 JR長野駅前で男女3人が刃物で刺されて死傷した事件で、長野県警は15日、長野市西尾張部、無職矢口 雄資 ( ゆうすけ ) 容疑者(46)を男性会社員(37)(長野市)に対する殺人未遂容疑で再逮捕した。県警は動機の解明を

プロの考察②「無差別」な犯行ではない

犯人は、自分が近づく行為や刃物を取り出す行動に気づいていない人を「選んで」犯行を起こす。つまり、被害者たちは犯人にとって「ソフトターゲット(狙いやすい標的)」となってしまっていた。

例えばスマホの画面に集中していて、不審者が近づくのが見えない。イヤホンで音楽を聴いていて、不審者が近づく音に気づかない。このように、防犯活動の基本である「周囲への観察」をしていない人を、犯人は「この人ならいける」と「差別的」に選んでいる。

この事件も無差別な犯行のように思える。しかしもし犯行の直前に、被害者のうちの誰かが周囲をしっかりと観察し、不審な人物が近づいて来ることに気づいていたとしたら、その人は犯人から距離を取るだろうし、犯人のターゲットからも外れていただろう。

この長野駅の通り魔事件から考察できることは、日本の一般の人たちの「防犯意識の低さ」である。一歩家から外に出たら、何が起こるかわからない。生命に関わるような事件や事故に巻き込まれないためには、周囲の状況を把握するための感覚(視覚・聴覚・嗅覚など)を自らシャットアウトせず、もう少し顔を上げて周りを見ることが大切なのだ。

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