経産省の面目丸つぶれ
この日、経産省の担当者も出廷。機器が規制対象に該当するか否かを警視庁側に伝えた内容を問われ、「非該当の可能性を数多く述べた」理由として、「警察が熱心だったので、クールダウンしてもらう趣旨だった」とも証言した。
――証人尋問された経済産業省の担当者の印象は。
大川原 女性の元職員は声が小さかったが、聞いていてもどうしようもない感じでした。男性職員(笠間大輔氏)は、自分の担当の時は「引き継いだことをしただけ」とし、あとは「担当を外れたので何も知りません」を繰り返して逃げていただけ。現場の技術をなにもわからない人たちが証言している印象でした。彼らは温度の正しい測り方も知らないのでは。
正確に厳密に温度を測るというのは極めて大変なことで、私も学生時代(大川原氏は京都大学工学部化学工学科卒)、徹底的に叩き込まれました。熱電対の値も流体と周囲の壁面の間の温度しかわからない。流体が流れている配管の温度などを測定するにしても、一体どこをどういうふうに測ったのか。
滅菌にしても、真空状態にも耐えて蒸気滅菌ができるとかできないとか、いろいろある。温度だけで違法かどうかを判断すること自体がそもそもおかしい。AG(オーストラリアグループ。生物兵器や化学兵器に関する取り決めをする枠組み)などでも、調べるのは「機器の仕様で」となっているのに。まったく現場の技術を知らないのです。
経産省は、わが社の機器が怪しいなと思えば「ちょっと聞かせてください」と相談するべきです。その時に違法と思えば警告もできる。なのに何もせず、いきなり警視庁に言われただけ。監督官庁としての役割が果たされておらず、面目も丸潰れ。そういった経緯が裁判で暴露されることも恐れているのでしょう。
「捜査記録などを読んできたか?」と高田弁護士に訊かれて、笠間氏が「覚えていません」 「見ていません」などと裁判官の前で平気で繰り返している。偽証しているのでしょうけど、呆れますね。
輸出規制を上乗せする日本
――以前の取材で社長は、「現場の技術を知らない人たちによる経済安保が大手をふるってしまえば、日本の産業は萎縮してしまって世界から立ち遅れる」と強く懸念されていました。
大川原 対中国などにしても、仲良くまではしないとしても、防衛で一番大事なのは、相手に対して戦う意欲を持たせないことでしょう。それには、「下手に手を出したら逆にやられてしまうよ」と向こうが思うような技術力がこちらにあることです。
資源に乏しい日本は、技術立国で生きていくしかない。技術も金が必要ですから、ある程度の財政力も必要。技術力による海外との競争が目に見える形で現れるのは、やはり貿易、輸出でしょう。
もちろん、どこの国も産業スパイのようなものがありますが、最先端の技術を学会に発表することなどが制限されてしまっては、どうしようもなくなります。
当社は中国の合併会社に対して、特許申請してあっても十年間は販売を認めない形を取ってきた。たしかに中国はものすごく他国の技術を真似するが、日本だって欧米の技術を真似してきたんです。
真似も大事で、そこから学ぶのですが、そこにとどまっていては意味がない。追い越すべく頑張らなくてはなりません。学会関係の仕事もしますが、いまの大学院生たちが自分の頭で検証していないことが気になります。
世界の学術論文で最も引用が多いのはアメリカですが、二番目が中国。日本はいまや、四、五番手に甘んじている。
かつて日本は、COCOM(対共産圏輸出統制委員会)で米国に追従してきた。しかし、欧州は日本ほど米国に追随しなかった。欧州自体が複雑な情勢になり、COCOMは消滅し、その代わりになっているのが米国主導のキャッチオール規制、こういう所へ売ってはいけないと決めています。一方、国連安保理では該当する機器をリストアップしている。全世界が対象で、ロシアも中国も入っている。
こうしたなか、なぜ日本だけが国際規制にさらに上乗せするような規制をするのでしょうか。実際、大川原化工機のニュースで企業が萎縮してしまっている、という話はよく聞きます。粉体機器のジェットミルなども、すべて輸出申請して許可を取らなくてはならないので東南アジアでは売れなくなってしまった。ホワイト国(経産省が定める外国為替管理法の輸出貿易管理令で、規定する該当機器の規制に優遇措置を与えている国)向けは審査が簡単なのですが。