事実と合わないと記録なし
――島田さんの弁解録取(逮捕直後に警察が記録する被疑者の弁明)も、「客観事実と合わないから記録に取らなかった」と話していました。
大川原 図らずも暴露してしまったのは、「立件の見立てと合わないことは記録に残さない」ということですね。
――安積警部補は島田さんに、「ほかの二人は容疑を認めている」とを吹き込んでいた。
大川原 島田さんに対してだけです。僕と相嶋さんに対しては別の取調官で、それはなかった。まあ、僕ら二人が協力的にならないと捜査がうまくいかないから、三人をうまく使い分けていったんですね。
多くの社員も長期間、任意聴取されていましたが、私は取調官に「おたくの会社は社内でこの取調について情報共有しないのか? 内容を報告させないのか?」とよく訊かれました。私が他の社員の供述なども知らないので、不思議だったのでしょうね。
でも当時、私は社内で「何を訊かれたか、報告してくれと」は一切言わなかった。
もちろん、聴取中に暴力を振るわれたとか違法と思われることがあれば、弁護士を呼ぶつもりでしたけど。何時から何時くらいまで、どこで聴取されたという報告だけはしてもらいましたが、自分から話したいことがない限りは、取調官に何を訊かれ、どう話したなんてことの報告を求めませんでした。
――社長の方針ですか。
大川原 そうですね。こういう会社は、社員が自分の頭で考えて一つひとつ進めないとだめなのです。特にエンジニアの仕事はそうです。本人が考えて進めないと。いちいち決裁なんか取っていては仕事が進みません。
最初の数年の修業期間を越えれば、もうエンジニアとして社内でも独り立ちし、自分で判断して進めてもらいます。文科系というか、営業関係などもそうですね。我々のように、小さい所帯(社員九十人)で比較的大きな仕事をしている会社というのは、そうでないとだめなのですよ。
「謝罪しません」
7月5日は二人の検事の証人尋問があった。起訴した塚部貴子検事が黒い服、起訴を取り消した駒方和希検事が白い服というのが象徴的だった。
尋問で、塚部検事は「私が見聞きした証拠関係で同じ判断をするかどうかと言われれば、同じ判断をする」と説明。さらに大川原社長らへの謝罪について問われると、「間違いがあったと思っていないので、謝罪という気持ちはありません」と答えた。一方、駒方検事は「追加実験などで菌が死ななかったので、立証が難しいと考えた」と説明した。
――二人の女性検察官の証言のご感想は。
大川原 塚部(貴子)検事は、まあ気の強そうな人物でしたね。澱みなく話していましたが、ものすごく瞬きをするし、話す時には顔が紅潮して真っ赤になるんです。まあ、検察を背負っている気持ちなんでしょう。原告側の私の隣には、いま大川原化工機に勤めている相嶋さんの二男も座っていたんですが、塚部検事はちらちらとこちらを見てはいました。
彼女が、郵便不正事件で村木厚子さん(厚労省元局長)を起訴した時の大阪地検特捜部の検事だったことも知っていました。高田弁護士からも、彼女についてはあれこれ情報は得ていました(高田弁護士と塚部検事とは司法修習時代の同期)。
それもあってか、「謝罪しません」の言葉も、ああやっぱりねという印象でした。もちろん、こちらに向かって彼女が頭を下げるようなことは一切ありませんでした。
――起訴を取り消した駒方検事は?
大川原 淡々と話していましたね。「自分たちの実験では、菌を殺せなかったから立件できない」ということを訴えていました。彼女は盛んに乳酸菌と言っていましたが、実は乳酸菌という菌はないのです。正しくは、いろんな乳酸を生み出す乳酸産成菌です。
それにしても、なぜK12株のような安全な大腸菌を使って実験しなかったのか。簡単に入手できるのに、不思議です。乳酸菌、乳酸菌と盛んに言うあたりからして、まあ、あまり分かっている人ではないなという印象でしたね。
大川原社長と横浜市の本社(撮影 粟野仁雄)