4月6日、沖縄県の宮古島周辺で陸上自衛隊のヘリコプターUH60JAが墜落し、搭乗していた坂本雄一第8師団長ら隊員10人全員が死亡した。サルベージ船によって引き揚げられた機体の残がいの写真(読売新聞撮影)を観察すると、メインローター(主回転翼)は引きちぎられ、エンジンカバーに刺さっているように見える。フライトレコーダーのデータが5月24日の記事で紹介されたのを参考に、事故原因の考察を試みた。
過去にも類似の事故
4月23日のYahooニュースに、今回の事故原因として、2018年に佐賀県で起きた陸自の戦闘ヘリAH-64Dの墜落原因にもなった、メインローターヘッド(主回転翼取り付け部)周りの折損を疑うべきだというコメントが載った。
それによると、佐賀県の事故では、ハブボルト(ローターヘッドのボルト)が金属疲労を起こして折れ、ローターの1枚が飛んだことで、ローターの角度調整が不可能となり、ローターが機体を叩くことになって、ほぼ瞬時に墜落した。墜落の様子を捉えた動画もある。
陸自は約4カ月後、「主回転翼を回転軸に固定する部品のボルトが破断した」と推定したが、破断の原因として、さび止め剤の劣化による摩耗と、元からボルトに亀裂があったという2通りの可能性を示しただけで、原因を特定できなかった。筆者は、三つ目のあり得る原因として、金属疲労でボルトが破断した可能性を提起したい。
金属疲労の中でも、繰り返しの回数が100万回ほどに達する「高サイクル疲労」は、金属の引っ張り強度の10分の1くらいの小さい荷重でも、亀裂が拡大して瞬時に破断する。回転体のボルトなど締結部の損傷、東京電力福島第2原子力発電所3号機の大型ポンプ溶接部の損傷、大型トラックのタイヤのハブ折損、ドイツの新幹線の車輪割れ、JAL機の圧力隔壁破断など多数の事例があり、ボルトや取り付け部の定期点検と整備が重要である。
フライトレコーダーのデータ公開を
5月24日の読売新聞によると、海底から回収された今回の事故機のフライトレコーダーには「同機のエンジンが異常な音を立て、機体のトラブルを知らせる警報音も鳴る状況が記録されていた。エンジンの出力が下がる中で、機長と副操縦士が高度を保とうと声を出し合う様子も残されていた。…機体はその直後に海面に墜落したとみられ、『あっ』という声を最後に音声は途絶えた」という。
ハブボルトの破断と同様の事象が発生したと仮定すると、まず回転翼の角度異常によるガスタービンエンジンの出力低下があり、折れた回転翼がエンジンカバーを損傷してエンジンの異常音を発生し、残りの回転翼が機体をたたき、墜落に至ったと推定できる。
高サイクル疲労の知識なしで事故原因を究明しようとしても、2018年の事故のように原因を特定できず、そのまま放置されて、5年後に師団長以下、自衛隊員の尊い命が失われるのである。フライトレコーダーの機体異常、エンジン出力低下、墜落の時系列データをぜひ公開して世界と情報を共有し、世界に6000機ある同型ヘリの安全確保に役立ててほしい。(2023.06.05国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)