“トンデモ科学”で言いがかり
3月28日の会見でも“田代ダム案”が「水利権」と関係すると述べた川勝知事(静岡県庁、筆者撮影)
2023年4月20日、染谷絹代・島田市長、杉本基久雄・牧之原市長、北村正平・藤枝市長が国交省を訪れ、大井川流域10市町の総意として「国がリニア問題でもっと強い指導力を発揮する」ことを要請した。
最近になって、「静岡県がリニア工事を妨害している」(2023年4月18日付静岡新聞)などの報道が目立つようになり、「反リニア」を貫く川勝平太知事に流域市町は強い危機感を募らせているからだ。
これまでリニア問題に関して、静岡県に一任してきた流域市町だが、ようやく“事実”を直視した上で、国の強い指導力に頼るよう方針を切り替えた。
静岡県のリニア議論は、現在、二つの議論がある。
一つは川勝知事の求める「県境付近の工事期間中の湧水全量戻し」に対して、JR東海の提案した“田代ダム案”。
“田代ダム案”とは、毎秒4・99トンの水利権を有する東京電力RPに田代ダムの取水抑制をしてもらい、県境付近の工事期間中の約10カ月間、山梨県へ流出する湧水500万トン(毎秒0・2トン程度)と同じ量を大井川へそのまま放流してもらう「全量戻し」の解決策である。
もう一つは、山梨県内の調査ボーリングによって、静岡県内の地下水が山梨県に引っ張られるという“トンデモ科学”に基づいた静岡県の言い掛かりだ。
このうち、“田代ダム案”は昨年4月、JR東海が提案すると、流域市町は高く評価。ところが、当初から川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる。突然、水利権の約束を破るのは乱暴なこと、アホなこと」などと、提案をつぶすのに躍起となった。
しかし、川勝知事は思い違いをしている。国交省は全量戻しと水利権は関係がないと公式見解を出しているからだ。
東京電力RPは“田代ダム案”に全面的に協力する姿勢だが、県境付近の工事期間中の限定的な対応であり、毎秒4・99トンの水利権(10年ごとに更新)とは無関係であることを県や流域にちゃんと了解してもらうことを「前提条件」とした。
なんの説明もしてこなかった静岡県庁
“田代ダム案”を妨害したい川勝知事が東京電力RPの水利権と関係あると何度も繰り返したため、JR東海はまず、外堀を埋めるために流域市町へ個別に説明したい旨を県に要請した。
2度のやり取りの後、県は「大井川利水関係協議会」の規約に違反するとして、JR東海の個別交渉を拒否、「大井川利水関係協議会」を開催して、説明の場を設ける妥協策をまとめてしまった。県は自分たちの“土俵”の上で流域市町をコントロールできると考えたのだ。
ところが、3月27日静岡県庁で開催した「大井川利水関係協議会」で、各市町は「田代ダム案で対応してもらいたい」(焼津市長)、「水利権とは関係ない。田代ダム案の協議を進めてもらいたい」(藤枝市長)、「田代ダム案を一歩前に進めることがぜひ必要」(島田市長)と、ほぼ全員が“田代ダム案”が水利権と関係ないことに同意した。
「この場で結論を出してほしい」と流域市町が求めたのに対して、県は「疑問点があり、もう一度、事務局で取りまとめたい」などと強引に結論を先送りしてしまい、静岡県行政の信頼性を失う結果を招いた。
翌日の28日の定例会見でも、川勝知事は「水利権に影響があれば、東京電力が困る。水利権と関係ないというにはもう少し詰めなくてはならない」などとこれまでと同じ発言を行い、流域市町の怒りを買った。
27日の大井川利水関係協議会の開催では、県が流域市町に何ら正確な情報を伝えていなかったことも明らかになった。
大井川利水関係協議会への「連絡及び交渉」は県を通じて行うと規約にあるため、JR東海はこれまで、流域市町へリニア工事に関する情報などを直接、説明する機会がなかった。JR東海は何度も説明の機会を設けたいと静岡県に要請したが、県は却下した。
今回の大井川利水関係協議会が、初めてJR東海の説明を行う場となり、各流域首長は“田代ダム案”とは全く別の質問をした。
中野弘道・焼津市長は「全量戻しということばの意味について確認したい。大井川すべての水、全量が失われる、リニア工事ですべての水がなくなってしまうと誤解している市民も多い。全量戻しについて説明してもらいたい」と述べた。
つまり、リニア問題の肝(きも)となる、川勝知事の強硬な主張「全量戻し」が流域の市民らにはわかっていなかったのだ。川勝知事の「命の水を守る」とは、一体、何なのか全くわからなかった。だから、流域市民らは盲目的に川勝知事を信じて、支持してきた(拙著『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事「命の水」の嘘』(飛鳥新社)は全く読まれていなかったようだ)。