バイデン米大統領の7日の一般教書演説は、インド太平洋戦略を共に担う日本にとって不安を覚えざるを得ない内容だった。まず、中国に言及しながら「台湾」が一言も出なかった。「力による台湾の現状変更を許さない」どころか「台湾海峡の安定」といった表現すらなかった。
台湾への言及なし
バイデン氏は過去4度にわたり、中国が台湾に侵攻すれば米軍が介入することになるとの趣旨を語ってきた。それだけに今回の演説は期待外れであり、過去の踏み込んだ発言は「その場の勢い」に過ぎなかったのかとの疑念すら呼び起こす。
バイデン氏は「紛争を望まない」としつつ、中国の指導部にこう語りかけた。
「見誤ってはならない。先週明確にした通り、もし中国が我々の主権を脅かすなら、我々は我が国を守るために行動する。そして行動した」
中国の偵察気球を米国本土横断後に撃墜したことを指す。しかし、防衛対象として言及されたのは「我々(米国)」だけである。
しかも、中国の気球に対するバイデン政権の行動は決して素早いものではなかった。野党共和党からは、なぜ気球がアラスカの領海上空に入った段階で対処せず、本土の大陸間弾道ミサイル(ICBM)基地やミサイル防衛施設の偵察を漫然と許してから撃墜したのかという批判が出ている。ターナー下院情報委員長(共和)は「まるで試合後に相手クオーターバックにタックルしたようなものだ」と述べた。
「バルーンゲート」いう言葉もできた。目前に迫ったブリンケン国務長官の訪中を予定通り行うため、気球の侵入を知りながら、一般人が撮影して問題にするまで公表せず、安全保障上の重要事態発生時に慣例となっている上下両院情報委員長らに対する緊急極秘ブリーフィングも行わず、秘匿・もみ消しを図ったのではないかという疑惑である。
バイデン政権は「気候変動が安全保障上最大の脅威」だとし、その面では中国をパートナーだと位置づけて協議を求めてきた。演説でも改めてその姿勢を打ち出している。しかし「安全保障上最大の脅威」は中国だろう。中国に対し、自ら付け入る隙を与えるような脱炭素原理主義は、バイデン外交最大の問題点と言ってよい。