【読書亡羊】党内の異論を封殺する日本共産党に外交なんて無理なのでは? 松竹伸幸『シン・日本共産党宣言』(文春新書)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


党改革を訴えたら除名処分

共産党員の朝は早い。

『しんぶん赤旗』を配り歩き、収入の1%を党費として納める。政党助成金や企業・団体献金を受け取らない代わりに、27万人と言われる共産党員が党を支えている。

既に報じられているように、一共産党員として「日本共産党の党首公選制」を訴えた松竹伸幸氏が除名処分となった。理由は「分派活動を行ってはいけない」とする取り決めに対する「重大な規律違反」であるといい、除名は最も重い処分だ。

共産党執行部のこの判断を聞いて「やっぱり共産党だな」と思った人は少なくないだろう。近年、共産党は若手や女性を前面に出して、イラストやカラフルなチラシや動画を使ったポップな党勢拡大運動に勤しんでいたが、やっぱり地金は隠せない。どんなに包み紙を柔らかい素材にしても、中身はやっぱり共産党なのだ。

松竹氏は、かつては党職員として政策委員会の安保・外交部長を務め、志位委員長との方針の違いから退職した後、かもがわ出版に移り、編集・執筆業に従事している。憲法と自衛隊をどう位置付けるかをテーマにした本を多数、ものしてきた。退職後も党員を続け、かつては週2回、朝5時に起きて『しんぶん赤旗』を配っていたという。

その松竹氏がここへきて繰り出したのが『シン・日本共産党宣言 ――ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』(文春新書)だ。

日本共産党には党首選がなく、結果、志位体制が長々と続いている。公明党以外の各党は党員を交えた投票によって代表や党首を選んでいるにもかかわらず、だ。

党内で党首選が実施されることで、おおよその方向性を同じくする政党内にも、さまざまな点で違う意見を持つ議員が存在し、活発な議論が行われていることが可視化される。

一方、共産党の場合、「闊達な党内議論」を外から確認することはできない。

松竹氏はそうした状況に一石を投じようと、本書を刊行して公選制を訴えるとともに、「もし党首公選が実現するなら、自分も手を挙げたい」と名乗りを上げたのだ。

シン・日本共産党宣言 ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由

プーチンより長い志位体制

共産党は「安倍一強」や「異論の出ない自民党」を批判してきたが、当の共産党・志位和夫委員長体制はすでに20年以上、続いており、メドベージェフ政権を挟んだロシアのプーチン政権よりも長い。

しかも、ロシアにはいろいろ問題はあるにせよ、対立候補も出馬し、大統領選挙が行われたうえで国民から選ばれて大統領に就任している。

大統領選と党首選では事情が違うが、日本共産党党首の場合は、すべての党員が投票して決める選挙は行われない。民主集中制と呼ばれる制度の下では、党員の最も小さな集まりである支部から始まって、選出に選出を重ねてきた人たちが代議員となり、中央委員を選ぶ。そして中央委員が党首を選ぶ。だから民主的だというのだ。

松竹氏も指摘するように、これは中国共産党と同じシステムだ。中国も日本共産党も、「民主集中制を取っているから、独裁にはなり得ない」としているが、中国は習近平が定年ルールをも超越して、独裁的長期政権を築いている。

では共産党はどうなのか。宮本顕治や不破哲三も「長期政権」だった。

先日、立憲民主党の西村智奈美代表代行が、同性婚を巡るやり取りの中で岸田首相に「プーチンの方がマシ」と発言して物議をかもしたが、こと選出プロセスにおいては、この言葉はそのまま志位委員長に贈った方がいいかもしれない。

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