我が国防衛の歴史的転換|岩田清文

我が国防衛の歴史的転換|岩田清文

日本の防衛政策上、戦後最大の転換と言える戦略3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)が、12月16日の閣議において決定された。増大する中国の脅威に対し政府が深刻な危機感を持った証左であり、大いに評価できる。


日本の防衛政策上、戦後最大の転換と言える戦略3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)が、12月16日の閣議において決定された。増大する中国の脅威に対し政府が深刻な危機感を持った証左であり、大いに評価できる。

脅威対抗力を強化

特に、反撃能力の保有は相手を抑止できる力を自ら持ち、確実に国を守ろうとする意志の明確な表れだ。手段として国産の長射程ミサイルと米国製巡航ミサイル「トマホーク」を両にらみで取得する姿勢は、1年でも早く抑止力を向上させる必要に迫られていることを示す。

これまで日米同盟の中で、日本は「盾」、米国は「矛」との役割分担だったが、反撃能力の保有で日本は「矛」の一部を担うことになる。反撃能力を機能させるには、相手の攻撃の兆候をつかむための警戒監視や、実際に行使する際の目標情報の収集、および反撃の実行、反撃後の評価などが欠かせない。国産の長射程ミサイルとトマホークを持つだけで反撃力を保有したとは言えず、米国と今後どう連携していくのか、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の改定を含めた協議が必要となる。

常設統合司令部の設置も意義が大きい。ロシアによるウクライナ侵攻作戦の失敗原因の一つは統合作戦能力の低さであり、侵攻当初は統合司令官も存在しなかった。我が国においては、2011年の東日本大震災以降、長きにわたってその必要性が指摘されていたにもかかわらず、具体化がなされてこなかった。

計画の迅速な具体化が課題

加えて、国の防衛は防衛省だけが担い手ではなく、全省庁、さらには国家全体を担い手とするものだという姿勢が随所に表れている。

能動的なサイバー対応力の導入、宇宙空間利用の強化、政府横断的な技術力の向上と積極的な活用、そして有事を念頭においた公共インフラ整備・機能強化などは、国の防衛が自衛隊のみでは達成不可能という認識に立つものだ。また国民の生命および生活そのものを守る上で、離島における国民保護や、相手国、紛争国の邦人保護、そしてエネルギーや食糧の確保などは、国家全体の総合的な機能強化なくしては成り立たないことも明確にしている。

今後5か年にわたる防衛力強化は、これまでの中期計画の約1.5倍に当たる43兆円という予算に裏付けられており、間違いなく大きな抑止効果を発揮するものと期待できる。しかし、今後重要なのは、この計画が絵に描いた餅にならないよう、着実かつスピード感を持った具体化をすることであり、関係者の真摯な努力と国民の理解・協力が求められる。(2022.12.19 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


最新の投稿


103万円の壁を上げ、年収増の実感を|玉木雄一郎×櫻井よしこ【2025年1月号】

103万円の壁を上げ、年収増の実感を|玉木雄一郎×櫻井よしこ【2025年1月号】

月刊Hanada2025年1月号に掲載の『103万円の壁を上げ、年収増の実感を|玉木雄一郎×櫻井よしこ【2025年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【新連載】若き仲間たちへ①失敗と贈る言葉|高市早苗【2025年4月号】

【新連載】若き仲間たちへ①失敗と贈る言葉|高市早苗【2025年4月号】

月刊Hanada2025年4月号に掲載の『【新連載】若き仲間たちへ①失敗と贈る言葉|高市早苗【2025年4月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


フジテレビ10時間会見〝ジャーナリスト〟たちの暴走 金平、望月、横田……|藤原かずえ【2025年4月号】

フジテレビ10時間会見〝ジャーナリスト〟たちの暴走 金平、望月、横田……|藤原かずえ【2025年4月号】

月刊Hanada2025年4月号に掲載の『フジテレビ10時間会見〝ジャーナリスト〟たちの暴走 金平、望月、横田……|藤原かずえ【2025年4月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


石破首相は国益を毀損していた【山上信吾×河井克行】

石破首相は国益を毀損していた【山上信吾×河井克行】

月刊Hanada 公式YouTubeチャンネルに投稿した『石破首相は国益を毀損していた【山上信吾×河井克行】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】14年経っても変わらぬ反原発変更番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】14年経っても変わらぬ反原発変更番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。