8月4日、米下院議長ナンシー・ペロシ氏の台湾訪問への報復として、中国は台湾を取り囲む6海域で激しい軍事演習を開始し、人民解放軍(PLA)は沖縄の排他的経済水域(EEZ)にもミサイル5発を撃ち込んだ。着弾海域はわが国最西端の与那国島からわずか60キロほどだ。
専門家は、PLAの軍事演習は台湾侵攻を念頭に置いていたと見る。台湾有事は日本有事と喝破した安倍晋三元首相の警告が現実味を帯びる。
危機意識ない沖縄県と国
10日の改造内閣を岸田文雄首相は「有事に対する政策断行内閣」だと誇った。しかし、沖縄における有事対応措置は甚だ心許ない。住民約1600人を抱える与那国町長の糸数健一氏が訴えた。
「国は国民保護法でさまざまな状況を想定していますが、住民に避難するよう指示できるのは、武力攻撃事態が認定されてからで、軍事侵攻が始まる段階です。それでは遅すぎます。小さく狭い島には地下壕もありません。何としてでも住民の島外避難が重要ですが、町だけの力ではできません」
沖縄県知事選を前に、19日、与那国島を訪れた玉城デニー知事に糸数氏は迫った。「台湾有事は日本有事、沖縄有事だ。住民を危機回避で島外に避難させる手立てを問い合わせても、県からは回答がない」
玉城知事は答えた。「この件については世界中のウチナンチュー(沖縄人)に呼びかけて、どの国とも仲よくするのが大事だ」。さらに「沖縄県は福建省と姉妹都市だ」とも語った。
話にならない。玉城氏は中国の脅威を理解しておらず、それ以前に、気にしていない。困り果てた糸数氏が国に問い合わせると、「県を通してくれ」との回答だ。与那国島が現実の危機に直面していることを県も国も感得していない、と糸数氏は訴える。
首相は本気度を示せ
町民の安全を守るという町長の責任を果たすために糸数氏は日夜考える。仮定の話だが、大型機の離発着が可能な長い滑走路を持つ隣の下地島に住民を移すとして、定員50人の現行定期便では30回以上飛ばなければならない。そんな離れ技をたとえやり遂げたとしても、そこから先、住民をどこで保護するのか。全て未定だ。
「有事の際の島民退避に目途がつかない以上、町長としては、危険が迫ったら早めに家族や親戚のいる所に一時的に身を寄せて下さいと言うしかない。飛行機代や当座の出費として、1人100万円支給すれば何とかなる。1600人で16億円。そのための基金の準備を考えています」
台湾から111キロ。与那国島は台湾有事の際、最も危険な島になる。「有事対応」と「政策断行内閣」を宣言した岸田氏は有事対応の本気度を示さなければならない。(2022.08.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)