バイデン政権の基本姿勢と実行力への疑問|島田洋一

バイデン政権の基本姿勢と実行力への疑問|島田洋一

左翼イデオロギーに迎合しつつ、様々な政治的思惑から腰が定まらず、ともすれば言葉と行動の乖離が目立つバイデン米政権。対中政策も矛盾と弱さに満ちている。


3月10日、北京において、中国が仲介する形で、イランとサウジアラビアが外交関係回復で合意した。これは、左翼イデオロギーに迎合しつつ、様々な政治的思惑から腰が定まらず、ともすれば言葉と行動の乖離が目立つバイデン米政権の「弱さ」を象徴する事例ではないか。

バイデン政権は、脱炭素原理主義の立場から石油産業を敵視し、サウジアラビアなど産油国との関係を悪化させた。しかし、ガソリン価格高騰に国内の不満が高まるや、一転してサウジに増産を求めたが無視され、政権の信頼性を一段と傷つけた。一方、トランプ前政権が離脱したイラン核合意への復帰を試みたが失敗し、サウジやイスラエルの不信を買うだけに終わった。サウジが取りあえず中国の仲介に乗ったのは、バイデン政権への失望と軽蔑の表れだろう。

「弱さ」に満ちた対中政策

バイデン政権の対中政策も矛盾と弱さに満ちている。「安全保障上最大の脅威」と位置付ける気候変動対策のためには中国と協力関係を保つことが不可欠、というのがホワイトハウスの立場だが、国防総省や共和党は中国共産党こそが最大の脅威との立場を取る。正しいのは後者だろう。

国防エスタブリッシュメントや議会からの圧力を受け、バイデン政権は戦略物資・テクノロジーの対中輸出規制強化を打ち出したが、厳格に執行されているのか疑問符が付く。

2月28日、下院外交委員会で、輸出管理を担当する商務省産業安全保障局(BIS)局長を招いた公聴会が開かれた。議員から、例えば中国最大の通信機器企業ファーウェイ(華為技術)に対する戦略物資の輸出許可基準はどうなっているのかとの質問が出たが、局長は「検討中」(underassessment)と答え、共和党を中心に議員らの怒りを買った。

マッコール外交委員長(共和党)は、自分の認識では、商務省の規制リストに明記されている物資についてすらほとんど規制は実行されていないと「深い懸念」を示した。その上で、3月7日、委員長名でBIS局長に対し、①ファーウェイに対する新規輸出許可を止めているのか②いつ「検討」は終わるのか③新基準が作られれば過去の基準で出された輸出許可は無効化されるのか―など6項目にわたる公開質問を発した。

相次ぐ起訴取り下げ

トランプ前政権は、ナノテクノロジーなど戦略分野の最新研究成果を中国に流していたとされる中国系その他の大学教授らを少なからず起訴したが、バイデン政権になって司法省が次々に起訴を取り下げている。

リベラル派が支配する大学の世界では、「トランプのレイシズム(人種差別)」が中国系教員を狙い撃ちにしたとして、当該教員をかばう立場を取るのが普通である。任用管理責任を問われては困るとの思惑もあるのだろう。

教員、学生を含め大学を重要な支持基盤とするバイデン政権が、大学当局に迎合して起訴取り下げに走ったのではないかとの疑念も付きまとう。

中国により厳しい姿勢を取る野党共和党が多数を占める下院で、事実の究明と法執行強化の動きが強まることを期待したい。(2023.03.13国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

日米韓の慰安婦問題研究者が東京に大集合。日本国の名誉と共に東アジアの安全保障にかかわる極めて重大なテーマ、慰安婦問題の完全解決に至る道筋を多角的に明らかにする!シンポジウムの模様を登壇者の一人である松木國俊氏が完全レポート、一挙大公開。これを読めば慰安婦の真実が全て分かる!


「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」――アメリカに本部を置く北朝鮮人権委員会が発表した報告書に記された衝撃的な内容。アメリカや韓国では話題になっているが、日本ではなぜか全く知られていない。核開発を進める独裁国家で実施されている「現代の奴隷制度」の実態。


最新の投稿


【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心  キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心 キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「ゴジラフェス」!