違う意見に耳を傾けたら相手をもっと嫌いになった! クリス・ベイル『ソーシャルメディア・プリズム』(みすず書房)

違う意見に耳を傾けたら相手をもっと嫌いになった! クリス・ベイル『ソーシャルメディア・プリズム』(みすず書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


全部エコーチェンバーのせいなのか?

「SNS上で『仲間』陣営の発言ばかり目にすることで、思想が過激化していく。それはエコーチェンバーや、フィルターバブルと呼ばれる、異論を排除した閉ざされた言論空間の中に置かれることによって生じる現象である」

ネット、主にSNSでの言説の過激化の理由として、こうした解説がなされることが多かった。

「ならば、エコーチェンバーやフィルターバブルから脱すればいい。自分とは意見の異なるアカウントもフォローして、異論や、自論に懸念を示すコメントを目にする機会を増やせば、徐々に極端な意見も穏健化し、実社会の政治的対立も緩和されるだろう」

そうした「対処法」も提案されるようになってきたが、実際、どうだろうか。自分とは明らかに違う意見を目にしたときに、どう感じるか。自論を否定された時に、素直に受け入れられるだろうか。「それはそれとして納得し、受け止める」人ばかりではないからこそ、SNS上の争いや炎上騒ぎが生じているのでは? 

このように、SNSについて一般的に解説されてきたことそのものを再度検証したのが、『ソーシャルメディア・プリズム』(みすず書房)の筆者、デューク大学教授のクリス・ベイルだ。

ベイルは計算社会科学の研究者として、何千何万のデータを検証し、ソーシャルメディアが政治的分極化を招く仕組みを研究。その結果、〈エコーチェンバーに関する通念を疑問視するに至った〉という。

そこでベイルは実験を試みる。大勢の米民主党派・米共和党派の人々に協力を依頼し、自分とは異なる意見のツイートばかりをリツイートするボットアカウントをそうとは知らせずにフォローしてもらう。実験前後には丁寧な聞き取り調査も行い、さまざまな度合いの政治的思想の持ち主が、「異なる意見」を一カ月間、目にした結果、どうなったかを調べる。

つまり、「自説に近いものばかり目にするエコーチェンバーを壊し、外側の意見に触れたらどうなったか」を調査したのだ。

ソーシャルメディア・プリズム――SNSはなぜヒトを過激にするのか?

「あんな奴らと一緒にされてはたまらない」と過激化

結果は驚くべきものだった。これまでの通説で言えば「人はより穏健化する」はずだったが、まったく逆の結果が出ることになったのである。

ボットのリツイート、つまり対立する意見に注目していた人ほど、それまで持っていた政治思想を強化した。特に共和党派は、民主党派の見解に触れたことによって、より保守的になってしまったという。

関連する投稿


【読書亡羊】世界には「反移民で親LGBT」「愛国的環境保護派」が存在する  中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)

【読書亡羊】世界には「反移民で親LGBT」「愛国的環境保護派」が存在する  中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】本当は怖いモディ首相の「寝てない自慢」と「熱い胸板自慢」  湊一樹『「モディ化」するインド』(中公選書)

【読書亡羊】本当は怖いモディ首相の「寝てない自慢」と「熱い胸板自慢」 湊一樹『「モディ化」するインド』(中公選書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】それでもツイッターは踊る  津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマー新書)

【読書亡羊】それでもツイッターは踊る 津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマー新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】あなたは本当に「ジャーナリスト」を名乗れますか?  ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール著、澤康臣訳『ジャーナリストの条件』(新潮社)

【読書亡羊】あなたは本当に「ジャーナリスト」を名乗れますか? ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール著、澤康臣訳『ジャーナリストの条件』(新潮社)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

すでに衆院の憲法審査会では4党1会派の計5会派が、いま行うべき憲法改正の内容について一致している。現在いつでも具体的な条文作業に入れる状況であり、岸田総理が決断すれば一気に進む。


【今週のサンモニ】加藤登紀子が暴いた「サンモニ」のダブスタと不寛容|藤原かずえ

【今週のサンモニ】加藤登紀子が暴いた「サンモニ」のダブスタと不寛容|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】世界には「反移民で親LGBT」「愛国的環境保護派」が存在する  中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)

【読書亡羊】世界には「反移民で親LGBT」「愛国的環境保護派」が存在する  中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】少子化を促進させた『サンモニ』報道|藤原かずえ

【今週のサンモニ】少子化を促進させた『サンモニ』報道|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

不法滞在者や不法就労者をなくす私の取り組みに対し、SNSをはじめ様々な妨害があった――。だが、改正入管法施行の6月10日以降、誰が正しいことを言っているのか明らかになっていくであろう。(写真提供/時事)