日米「2+2」と日豪円滑化協定の軍事的意義|太田文雄

日米「2+2」と日豪円滑化協定の軍事的意義|太田文雄

今回の協定締結により、日豪相互の大部隊展開が円滑に行われるようになったことで、両国は同盟関係に一層近づいたと言える。それは台湾有事への備えにもなるだろう。


7日、日本と米国の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」)がオンライン方式で行われた。6日には自衛隊とオーストラリア軍が相手国を訪問する際の法的地位などを定めた日豪円滑化協定が締結された。この二つの軍事的な意義について考察してみたい。

極超音速対抗技術を共同研究

日米両国は2+2で、中国、ロシア、北朝鮮の極超音速滑空兵器(HGV)に対抗する技術を含む新興技術に関する協力推進や、宇宙分野での協力深化を盛り込んだ共同声明を発表した。

防衛省の令和4年度予算案では、多数の小型衛星から成る「衛星コンステレーション」をミサイル防衛に活用する検討の一環として、HGVの探知・追尾に必要な技術の調査研究に3億円、敵ミサイル発射を探知する高感度の赤外線センサーの研究に12億円がそれぞれ計上された。さらに、弾丸を電磁気力により加速して撃ち出し、HGVを迎撃するレールガンの研究に65億円が充てられている。

特にレールガンについては、5日に中国共産党系のニュースサイト、環球網が写真入りで報じたことから、中国としては相当神経を尖らせているに違いない。ところが米軍は昨年、レールガンの開発計画を中断してしまった。

2+2の共同声明は、こうした防衛省の研究開発に米国も加わる意向を示した点で意義深い。

共同声明では、日米同盟のビジョンや優先事項の整合性を確保することもうたわれており、米国が推進する太平洋抑止構想(PDI)の下での中距離弾道ミサイル配備計画と日本が推進する対艦ミサイルの長射程化についても、役割・任務・能力分担で整合性が図られるであろう。

日豪関係は同盟に近づく

一方、自衛隊と豪州軍の協力は、これまで補給品などを融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)のレベルにとどまっていた。新たに調印された日豪円滑化協定は両国の大部隊が相手の国を訪問する際の手続きや兵員の法的地位を定めたもので、在日米軍に関する日米地位協定に相当する。日本がこの種の協定を結ぶのは、同盟国である米国を除けば豪州が初めてとなる。

令和元年に豪空軍のF/A18戦闘機が航空自衛隊の千歳基地に展開した時には、兵員の出入国時の手続きや、資材等を取得・利用する際の課税の扱い、運転免許や武器輸送に関する取り決め、兵員が外出した際の事件・事故発生時の対応等が定められていなかった。そのような不都合が円滑化協定調印で解消された。

このほか同協定は両国の協議機関として合同委員会を設置しており、昨今の在日米軍基地におけるコロナウイルス患者のクラスター発生のような場合に、同委員会が役立つだろう。

今回の協定締結により、日豪相互の大部隊展開が円滑に行われるようになったことで、両国は同盟関係に一層近づいたと言える。それは台湾有事への備えにもなるだろう。(2022.01.11国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

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