12月15日、米上院は2022会計年度(21年10月~22年9月)の国防予算の大枠を決める国防権限法案を可決した。また24日には、日本の令和4年度予算案が閣議決定された。両国の防衛(国防)予算の中で、対中抑止という観点から注目すべき点を論じてみたい。
リムパックは日台軍事交流の媒体に
米国防権限法案では、来年行われる米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に台湾を招待するようバイデン政権に勧奨することが盛られている。
これまで自衛隊は外交上の制約から台湾軍と交流できなかった。しかし、リムパックという多国間合同演習の枠組みに参加すれば、結果的に軍同士の直接交流が可能となる。仮に米海軍がリアルタイムに情報交換できるデータ・リンクの暗号を台湾海軍にも貸与すれば、海上自衛隊と台湾海軍は同じ戦術図を共有することが可能になる。これは大きな意義がある。
1980年に海上自衛隊は初めてリムパックに参加した。それまで自衛隊は米軍以外と交流することが認められていなかったが、リムパック参加を契機に多国間交流ができるようになり、集団的自衛権の行使容認へ道を開いた。台湾海軍がリムパックに参加すれば、日台軍事交流の突破口になる。
自衛隊開発の巡航ミサイル
日本の来年度予算案の防衛費で、筆者が特に注目するのは12式対艦誘導弾の能力向上である。防衛省の公式発表では「能力向上型」としか書いてないが、報道によれば、これまで約200キロの射程が900キロに伸び、最終的には1500キロを目指す。また、これまで陸上発射のみであった同ミサイルが、潜水艦を含む艦船や航空機から発射できるようになる。
さらに射程2000キロで日本版トマホークと呼ばれる新型の対艦誘導弾も開発中と報じられている。問題は目標を見つけ出す探知能力であるが、台湾海軍のリムパック参加でリアルタイムに情報交換ができるようになれば、台湾海軍艦艇が探知した中国人民解放軍海軍の台湾侵攻部隊を攻撃することが機能的にできるようになる。
米国防権限法案では、インド太平洋軍強化のための「太平洋抑止構想」(PDI)に前年度比3倍超の約71億ドルを充当しており、これによって現在ゼロである地上発射型中距離ミサイル(射程500〜5500キロ)を日本、台湾、フィリピンに連なる第1列島線やグアム島を含む第2列島線上に配備する計画であろう。
自衛隊のミサイルの射程伸長と米国のPDIによる新たなミサイル配備により、対中抑止力は格段に向上する。問題は、岸田文雄政権が米国の地上発射型中距離ミサイルを日本国内に配備する決断をするか否かである。(2021.12.27国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)