防災・食・住の変革に対応できる投資
気象庁の『地球温暖化予測情報第9巻』と環境省の『2100年未来の天気予報(夏)』を併せ読むと、衝撃的な日本列島の姿が容易に想像できてしまい、怖くなります。
地球温暖化対策が上手くいかない場合、55年後(2076年)から79年後(2100年)の変化として、全国平均4・5度以上の気温上昇により、局地的に1時間に100ミリの激しい雨が降り、最大瞬間風速70メートルから90メートルの台風に襲われ、農産物の品質や収穫量も変わってしまう。
風速70メートル超の風や1時間に100ミリを超える雨は、「土木」や「建築」に根本的な変革を促します。しかも、いきなり55年後に起きる変化ではなく、年々気候は変動していくわけですから、生命を守るために、「厳しい気候にも耐え得る土木・建築技術の研究開発」と「防災対策への大胆な投資」を急がなくてはなりません。
「防災対策」は、10年間で約100兆円規模の『中期計画』を策定し、技術革新とともに計画を更新しながら継続していくべき重要な「危機管理投資」です。
気候変動によって、「食」も「住」も、現在とは大きく変わるでしょう。世界的な「水ストレス人口の増大」も避けられません。55年というと長いようですが、国民の「食」と「住」が変わるには、1世代の時間が必要。今から優先順位を決め、取り組みを加速させるべきです。
「農業」については、気候変動に対応しつつ、データを駆使し、生態系を持続させる形に転換させることになるでしょう。
農地や牧地に止まらず河川流域全体や市街地全体を再設計する「グリーンインフラ技術」が注目されています。同じ変化に見舞われる諸外国に関連技術や産業は輸出できるので、同分野への投資は「危機管理投資」と同時に「成長投資」にもなる。
これらの課題については、現内閣では政策が体系化・具体化されていないので、集中的な検討をしなければなりません。
「老朽化した集合住宅の増改築投資」も、喫緊の課題です。
国土交通省が老朽化した集合住宅の建て替えを促進するために容積率を増やす『省令』 『告示』の改正を行うことが追い風になるはずですが、「空き住まい部分の買い取り」「増改築」「管理・売却の代行」を一体的に行う仕組みを整備する必要があります。UR(都市再生機構)の機能を強化し、実施自治体を支援する財政措置を新設することが現実的です。
現状の防災対策としては、地方自治体には「使えるものは、使う」という観点から、国の施策も積極的に活用していただきたい。
たとえば、私自身が発案し、『地方財政法』を改正し、令和2年度に創設した「緊急浚渫推進事業」を早期に活用した地方自治体では、昨年の7月豪雨で被害が出ませんでした。「浚渫(しゅんせつ)」というのは、河川や貯水池などの水底の土砂を掘り取ることで、河川の流路を拡げたり、深度を増したりすることができます。
主要河川と言われる1級河川は、『河川法』によって国土交通大臣が指定し、浚渫などの維持管理費用も国土交通省が措置する。しかし、2級河川と1級河川の一部区間は都道府県知事が指定し、準用河川は市町村長が指定することとなっており、維持管理費用は国庫補助事業の対象とならず、地方自治体の厳しい財政事情から、十分な対応ができていませんでした。
近年の豪雨災害では、市町村管理の小さな河川の越水でも命に関わる被害が出ており、地方自治体が自ら防災事業に取り組める環境を整えることが急務です。
「緊急浚渫推進事業」の「浚渫」とは、河川、ダム、砂防、治山に係るもので土砂の除去・処分、樹木伐採などを含め、事業費総額は5年間で約4,900億円規模。令和3年度からは、農業用ため池も対象に追加されました。
各地の川底を掘って発生した土砂については、土質などの情報を公表することにより、地方自治体や建設事業者が他の事業に広く有効活用できる仕組みも構築。
富山県立山町では、浚渫事業により発生した土砂を企業団地の造成事業に活用し、宮崎県では、津波避難のための高台整備事業、道路改良事業、河川堤防整備事業に活用しました。徳島県は、四国横断自動車道の工事に活用しています。土質にもよりますがが、土砂の売却によって地方自治体の新たな財源を生む可能性もある。
日本に強みがある技術を活かす投資
私は、「日本に強みがある技術」について、研究成果の有効活用や国際競争力強化に向けた戦略的支援を長期的に行うことが、「成長投資」の目玉になると考えています。たとえば、「電磁波技術」では、神戸大学の木村建次郎教授の手による「マイクロ波マンモグラフィー」に注目しています。
癌組織と正常組織のマイクロ波の反射の違いを利用し、散乱したマイクロ波から癌組織を瞬時に3次元映像化するもの。販売は来年以降になるそうですが、多くの医療機関が導入して「痛くない乳癌検診」「被曝しない検査」が実現したなら、どれほど多くの女性が幸せになることでしょう。
痛みが酷い現在のマンモグラフィーへの恐怖から乳癌検診を先送りしてしまう私のような女性が多いと思いますが、現状では約40%に止まる乳癌検診の受診率が上がることによって早期発見に繫がり、医療費の節約にもなる。
手術費用と治療薬費用を合わせると、年間約632億円の医療費削減効果が見込めます。しかも、世界中に輸出できる医療機器になります。
また、空港などのセキュリティゲートでも、超高感度磁器計測および画像再構成理論を適用した凶器探知なら、無人で機械判定ができ、立ち止まらない検査も可能です。
バイオ関連では、タンパク質の3次元構造解析が可能な「クライオ電子顕微鏡」を実用化・市場導入し、次世代の創薬研究開発の基盤構築に貢献したのは、日本電子。30年以上の産学官連携による研究開発が成功した「成長投資」の好事例です。
光学顕微鏡ならばミクロンレベルだが、電子顕微鏡は1ナノメートル(100万分の分1ミリ)で、原子1個が見えます。供給できるのは世界で3社しかない。電子顕微鏡は、創薬に加え、多分野の材料開発に不可欠。半導体分野でも、半導体デバイスがナノレベルに小さくなっていることから、開発や品質管理に使われています。
日本電子のコアテクノロジーには、核磁気共鳴装置(NMR)もあり、科学技術を前に進める分析の母となりそうです。日本電子の栗原権右衛門会長によると、「過去には政府の『設備整備予算』がついていたが、同政府予算は大幅に減額されている」ということでした。
「成長投資」で応援するべき分野です。