老生、今風に言えばガラパゴス人間、時代遅れの人間である。ITの、AIの、と聞いても、心が動こうとしない。いやまったく動かない。この原稿も毛筆で一字一字と書いている化石人間である。さりながら、時代遅れなりに浮き世を眺めると、これほど面白い芝居はまたとない。しかも無料でだ。
先日、トランプ大統領が議会で初演説を行なったが、なんとジャーナリズムの大半が褒めまくっているではないか。つい先日まで罵倒し尽していたのに、掌を反すような態度、それでいいのか。そのジャーナリズムの本質は、こうだ。
無責任──それに尽きる。
無能──それが正体。
無節操──それを隠さぬ厚顔。
とすれば、あの一斉の罵倒は何だったのか。その多くは、優等生の正義面、そして日本の知識人に多い〈表面上の行儀良く1列並び〉にすぎなかった。だから、いつまでたっても〈独自の見識〉など生まれようがない。結果、毒にも薬にもならない平々凡々の世間話。とても〈意見や見解〉と言えるようなものではない話ばかりを撒き散らしているにすぎない。
「池上彰のなんとやら」
例えば、アメリカ、アメリカ、トランプ、トランプ……と言うのならば、問う。それほど問題にするアメリカが強国である要素とはいったい何なのか、と。そう問うたならば、もちろん凡庸な答が返ってくるだけ。
すなわち、軍事力、経済力、工業力……等が世界第1位であるとかなんとか、幼稚園児並みの内容である。そんなこと、だれでも知っている。にもかかわらず、自分では〈それがインテリの知識水準を示すもの〉として、なんの疑問も抱いていないどころか、その〈知識〉にぶらさがって、それ以上は考えない。知識の有無が始まりであって同時に終り。知識量を競うことが第一。
これが、<今でしょ先生>やら、<池上彰のなんとやら>といった物識りテレビ番組作りとなっている。
そうではない。教育上、知識は大切であるが、それを山積みするのが目的ではなくて、それを活かすことが目的なのである。
今の例で言えば、強大な軍事力(つまりは核攻撃能力)を有する国家は、ロシアを始めいくつもある。一方、威勢のいい経済力を有する国家は中国を筆頭に、優秀な工業力を有する国家はドイツを第一に、それぞれ各地に存在している。
しかし、そういう有力国家といえども、世界第一強国の地位をアメリカから奪い取ることができない。なぜか。
日本が学ぶべきこと
老生、時代遅れであるがゆえに正解を出すことができる。こうである。
アメリカは、世界第1位の工業国であると同時に、世界第1位の農業国であり、最近ではそれに加えて、エネルギー源を自国地下から得て自給自足が可能。つまり、グローバル化などと喚かなくとも、モンロー主義(他国との相互不干渉の原則)で国家運営ができる、おそらく世界唯一の国家なのである。他国の世話にならなくとも生存できる──これが世界最強国の大要素となっているのである。
工業国であり同時に農業国である国家は少ない。例えば中国は、工業国になれるかもしれないが、農業国には絶対になれない。見かけは強国であっても、食糧充足ができない張り子のパンダ国にすぎない。
ここである。トランプがモンロー主義的にグローバル化から退き、自国の強化を図ろうとしている政策から日本が学ぶべきことは。
工業とともに、農業を活性化し、食糧(主食)完全自給を可能にする国家的構想によって、日本を強国化してゆくことだ。それは同時に、中国に対する強力な防衛ともなってゆくのである。第一、農業振興は日本人に対して最も好意を持って理解させ得る大政策ではなかろうか。
古人曰く、それ食は、人の天となす。農は、政(まつりごと)の本となす、と。