【読書亡羊】万引きGメンの夢は遠くなりにけり

【読書亡羊】万引きGメンの夢は遠くなりにけり

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評。


嗚呼、憧れの「万引きGメン」!

万引きGメンという職業に憧れていた。

万引きGメンとは、万引き犯が犯罪に手を染める瞬間を見逃さず、レジを通過せずに店を出た時点で犯人に声をかける保安員である。中高年になったら、この職を目指そうと思っていた。

夕方のニュース番組や「警察24時」といった事件ものの番組に登場する万引きGメンの姿に影響されたのだ。鋭い視線と、「あの人怪しいね、きっとやるよ」という独白。犯人に声をかけるときの「おカネ払ってない商品あるよね、自分でわかってるでしょ、ちょっと事務所までお願いね」というどこか優し気なトーン。

観念して大人しく事務所まで同行する万引き犯。独居老人だったり、あるいは何らかのストレスを抱えた人物やゲーム感覚で悪さした学生だったりが、最終的には「ごめんなさい……」と泣きながら赦しを請うも、警察に連行される姿にBGMが重なる――という、例のアレである。

どこか人情物のドラマのような風情。万引きGメンはその舞台でいかにも酸いと甘いをかぎ分け、人間の悪事を取り締まりながらも、万引き犯の更生さえ願っているような、そんな存在に思えていた。憧れは、そうした印象から生じたものだ。

前置きが長くなったが、実際に万引きGメンとして5000人以上の万引き犯を捕捉してきた伊東ゆうさんの『万引き―社会像から見える犯人の陰』(青弓社)が出ると知り、すぐに買って夢中で読んだのはそれゆえだ。

そして万引きGメンへのほのかな憧れは、見事に打ち砕かれることになった。

万引き 犯人像からみえる社会の陰

組織的・計画的な万引きは、もはや強盗

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梶原麻衣子 書評 読書亡羊

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