中国発コロナ危機が促す政治の覚醒|田村秀男

中国発コロナ危機が促す政治の覚醒|田村秀男

緊急事態宣言延長で、ますます不透明感が増す日本経済の先行き。 緊急経済対策も従来通りでいまいちインパクトに欠ける。 各省庁の官僚が捻り出した案だけで、経済は活性化できないだろう。 ならばどうするか。日本が本当に取るべき施策とは――


緊急経済対策の盲点

政府が緊急事態宣言と同時に打ち出した緊急経済対策には重大な盲点がある。安倍晋三首相は新型コロナウイルス・ショックによって「戦後最大の危機に直面している」として、国内総生産(GDP)の二割に相当する事業規模総額約百八兆円、「世界最大級」だと言明した。

「水増し」かどうかは別にして、首相本人が繰り返し言及していたはずのコロナ感染症終息後の「経済のV字型回復」の道筋がどうにも見えないのだ。

とは言え、遅すぎるわけではない。危機は長引くのだ。緊急事態終了までに、「うろたえるな。先行きは大丈夫」と図太く宣言し、消費税の大型減税や百兆円規模の国債追加発行を決断すればよい。

近代経済学の巨人、J・M・ケインズが提起したジンクスに、「合成の誤謬」がある。ミクロ単位の人々や企業が個々に最適とみて行動しても、国家経済として総合すれば負の結果しか生まれないというのである。

今回の緊急経済対策に当てはめてみればよい。

行政手続きが複雑でちまちました現金給付、融資や納税猶予など対策項目を山ほど積み上げたところで、個人や中小企業・零細事業者の関心はどうしても「もらえる」、「もらえない」、「借りたところで返せない」などという切実極まりない目先利害に集中してしまう。

勤勉な日本人は不安を抱えながらも稼ぐためにマスク姿でいつもと同様、電車やバスに乗る。多くが居酒屋、風俗、カラオケに行かなくても東京、大阪など緊急事態対象地域の市民に求めている他人との接触八割減の達成は到底無理だ。

人はかなりの程度動くのにカネは動かないとなると、感染症終息の見通しが立たないまま、消費や雇用も冷え込むばかり、という最悪のコースに踏み込んでしまう。

経済は各省庁の官僚がひねり出すメニュー満載のペーパーを積み上げるだけでは活性化しないことは、1990年代以来の「空白の三十年」が証明する通りだ。

90年代初めのバブル崩壊後、九七年四月の消費税増税ショック、2008年9月のリーマンショック、2011年3月の東日本大震災と、政府は景気減速不安のたびに、大型補正予算を組んだが、効果はほんのひと時で、ゼロ%台の実質経済成長と財政収支の悪化という元の木阿弥を繰り返してきた。

「日本を取り戻す」はずのアベノミクスは、金融緩和と消費税増税と財政緊縮の組み合わせでどん詰まり、コロナショックに見舞われる前の19年10~12月期に実質経済成長率は年率換算でマイナス7・1%と沈み込んだ。市場アナリストの間では、ことし1~3月、4~6月は空前絶後の数十%のマイナス成長が確実視される。

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対中国への危機感をテコに変革を

コロナショックはさすがに官僚丸投げ方式を吹き飛ばすかもしれない。三月初旬以来の株価暴落の嵐の中、「大胆な政策」を唱えていた安倍首相に内心ひそかに期待をしてみたが、空振りだった。

繰り返し問う。
なぜ、コロナ危機の渦中になっても、経済政策は従来通りなのか。「財務官僚のせいだ」、と批判勢力の多くの知己が言う。

だが、自民党少数派の積極財政論者、安藤裕衆院議員などの証言を聞くと、与党の圧倒的多数が財政均衡至上主義に染まっている。財務官僚を叩いたところで、肝心の政策決定の政治コアはびくともしないのだ。

どうすれば政治は覚醒するのか。覇権国アメリカを見よ。国家の危機という認識を超党派大多数が共有する。今の相手は無論、全体主義中国だ。

トランプ大統領は時折、粗野な言い方を駆使しながらも、習近平中国の膨張を抑え込む経済政策を総動員する。中国の弱みがドル依存の通貨金融システムであることを見抜き、貿易戦争を仕掛け、対米貿易黒字を大幅に縮小させ、軍拡もハイテクの奪取も許さないように仕掛ける。

新型コロナウイルスを真っ当に「武漢ウイルス」と呼び、習近平政権べったりの世界保健機関(WHO)への資金拠出カットを辞さない。中国がコロナショックからいち早く立ち直れば、世界に対する影響力が増大するとの危機感による。
 
対照的に、日本の政官民多数派は対中協力に傾斜する。企業は中国市場、大都市、地方の小売りも中国人旅行者のインバウンド消費に頼るから、安全保障上の脅威に対する危機感が薄くなる。

ならば、経済の対中依存をなくす現実的な経済政策を打ち出すしかない。

そのためには、内需主導経済に変えることだ。そうなるまでの間、消費税の実効税率をゼロにする。足りない財源は国債発行で賄う。冒頭で触れた首相メッセージは中国の脅威に対する危機感をテコにすることでしか生まれない。

中国発コロナはその点、チャンスである。

田村秀男

https://hanada-plus.jp/articles/350

産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員。1964年、高知県生まれ。1970年、早稲田大学第一政治経済学部卒。同年日本経済新入社、1984~88年、ワシントン特派員。その後、経済部編集員、米国アジア財団上級客員研究員を経て、1996年、日経香港支局長、1999年、東京本社編集委員となる。2006年、産経新聞に移籍。

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