ある経済学者の反論
ある海外の経済誌を読んでいたら、こんな一文を目にしました。
「自然災害はその国の“最大の弱点”を表面化させる」
この一文どおり、新型コロナウイルスは、日本の経済政策の問題点とデータ分析のなさ、産業構造の弱さを襲っています。
私は月刊『Hanada』5月号で、小規模事業者は日本経済の足を引っ張っており、政府は今回のコロナショックでも安易に手を貸すべきではないと書きました。
しかし、四月七日、政府が発表した緊急経済対策では、中小企業などを対象にした給付金は、事業収入が前の年の同じ月に比べて50%以上減少した事業者に、中堅、中小企業には200万円、フリーランスを含む個人事業主には、100万円をそれぞれ上限に減少分を給付するとしています。この金額からして、どうやら小規模事業者を中心にサポートする方針のようです。
人口激増時代には小規模事業者は、雇用の受け皿として貴重だったのでしょうが、人口減少時代の今の日本では、小規模事業者を優遇する経済政策を少しずつ変えないといけません。ここで間違ったメッセージを送ってはいけないのです。
しかし、ある経済学者がテレビ番組でこう言っていました。
「零細企業がつぶれて、経済が効率化するのはそのとおりだが、それは平時の話。いまのような有事では、零細企業だろうがバラマキをやって雇用を守ることが優先だ」
では、「いつ」ならやれるのか。景気がいい時でも「好景気に水を差すな」と反対されるのがオチでしょう。結局、平時でも有事でもダメで、いつやるにしても反対はされるのです。
ここで、小規模事業者を延命させ、彼らに成功体験を与えれば、有事が平時に戻ったとき、日本経済に重い後遺症傷を残すことになります。
つらい憂き目に遭う中堅企業
どういうことか。中小企業はかなり税制優遇措置を受けています。ざっと挙げてみましょう。
①法人税の軽減
②欠損金の繰越控除
③欠損金の繰戻還付
④交際費課税の特例
⑤投資促進税制
⑥少額減価償却資産の特例
⑦固定資産税の特例措置
⑧研究開発費税制
⑨消費税の特例
これだけ優遇されているにもかかわらず、小規模事業者の生産性は大企業の41・5%。優秀な日本人労働者を最低賃金で働かせている比率も高い。小規模事業者の平均規模(従業員数)は3・4人と極めて少ないから、一人当たりの負担が重く、有給休暇取得率も低く、女性活躍も進まない。
それに加えて、ほとんどの小規模事業者は税金を払っていません。
たとえば、④は800万円まで交際費が損金扱いできます。こういった優遇策がある以上、仕方ないのですが、半分強の日本企業は売上げが1億弱もないのに、小規模事業者は少ない売上げから、本来、残しておくべき800万円を接待と称してクラブや料亭などで使ってしまう。
また、会社の利益をすべて役員報酬にし、慢性的な赤字にしている例は少なくありません。奥さんや子供なども役員にして給与を払えば、各々に控除が適用されますから、節税メリットも大きくなる。私はそういった不適切な行為を節税ではなく、“合法的な脱税”と呼んでいます。
その結果、労働者は低賃金で働かされ、法人税や所得税、消費税も徴収できず、国家は弱体化します。
一方、日本は労働者の46%を雇用している中堅企業に厳しいです。中堅企業は“合法的な脱税”が困難です。まず、合法的な脱税ができる規模を超えています。また、税務署に目をつけられているからです。大企業は、税理士などのプロフェッショナルを総動員しており、またガードが固いですから、実効税率が低い。小規模事業者は慢性的な赤字にしていれば、税務署は調査に来ません。
そこで税務署は、それなりの売上げがあり、かつガードもそこまで固くない中堅企業に目をつけるのです。しかも、こういう危機のとき、健全な経営であるがゆえに、支援の優先順位として下におかれることも多い。
良質な雇用を生み出し、きちんと税金も納めている中堅企業こそ、日本の宝であり、大切にするべきなのですが、つらい憂き目に遭っている。
小規模事業者が中堅企業を目指して成長しているのであればいいですが、残念ながら、中小企業庁によると、成長しているのはたったの2・6%です。