零細企業への延命措置は、日本経済に重い後遺症を残す|デービッド・アトキンソン

零細企業への延命措置は、日本経済に重い後遺症を残す|デービッド・アトキンソン

持続化給付金の申請が始まった。コロナ・ショックで重大なダメージを受けている日本経済には必要な措置だろう。しかし、日本経済の足を引っ張り続けている零細企業、小規模事業者にまで手を差し伸べれば、コロナ終息後の日本経済に重大なリスクが……伝説のアナリストによる緊急提言!


ある経済学者の反論

ある海外の経済誌を読んでいたら、こんな一文を目にしました。

「自然災害はその国の“最大の弱点”を表面化させる」

この一文どおり、新型コロナウイルスは、日本の経済政策の問題点とデータ分析のなさ、産業構造の弱さを襲っています。

私は月刊『Hanada』5月号で、小規模事業者は日本経済の足を引っ張っており、政府は今回のコロナショックでも安易に手を貸すべきではないと書きました。

しかし、四月七日、政府が発表した緊急経済対策では、中小企業などを対象にした給付金は、事業収入が前の年の同じ月に比べて50%以上減少した事業者に、中堅、中小企業には200万円、フリーランスを含む個人事業主には、100万円をそれぞれ上限に減少分を給付するとしています。この金額からして、どうやら小規模事業者を中心にサポートする方針のようです。

人口激増時代には小規模事業者は、雇用の受け皿として貴重だったのでしょうが、人口減少時代の今の日本では、小規模事業者を優遇する経済政策を少しずつ変えないといけません。ここで間違ったメッセージを送ってはいけないのです。

しかし、ある経済学者がテレビ番組でこう言っていました。

「零細企業がつぶれて、経済が効率化するのはそのとおりだが、それは平時の話。いまのような有事では、零細企業だろうがバラマキをやって雇用を守ることが優先だ」

では、「いつ」ならやれるのか。景気がいい時でも「好景気に水を差すな」と反対されるのがオチでしょう。結局、平時でも有事でもダメで、いつやるにしても反対はされるのです。

ここで、小規模事業者を延命させ、彼らに成功体験を与えれば、有事が平時に戻ったとき、日本経済に重い後遺症傷を残すことになります。

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つらい憂き目に遭う中堅企業

どういうことか。中小企業はかなり税制優遇措置を受けています。ざっと挙げてみましょう。

①法人税の軽減
②欠損金の繰越控除
③欠損金の繰戻還付
④交際費課税の特例
⑤投資促進税制
⑥少額減価償却資産の特例
⑦固定資産税の特例措置
⑧研究開発費税制
⑨消費税の特例

これだけ優遇されているにもかかわらず、小規模事業者の生産性は大企業の41・5%。優秀な日本人労働者を最低賃金で働かせている比率も高い。小規模事業者の平均規模(従業員数)は3・4人と極めて少ないから、一人当たりの負担が重く、有給休暇取得率も低く、女性活躍も進まない。

それに加えて、ほとんどの小規模事業者は税金を払っていません。

たとえば、④は800万円まで交際費が損金扱いできます。こういった優遇策がある以上、仕方ないのですが、半分強の日本企業は売上げが1億弱もないのに、小規模事業者は少ない売上げから、本来、残しておくべき800万円を接待と称してクラブや料亭などで使ってしまう。

また、会社の利益をすべて役員報酬にし、慢性的な赤字にしている例は少なくありません。奥さんや子供なども役員にして給与を払えば、各々に控除が適用されますから、節税メリットも大きくなる。私はそういった不適切な行為を節税ではなく、“合法的な脱税”と呼んでいます。

その結果、労働者は低賃金で働かされ、法人税や所得税、消費税も徴収できず、国家は弱体化します。

一方、日本は労働者の46%を雇用している中堅企業に厳しいです。中堅企業は“合法的な脱税”が困難です。まず、合法的な脱税ができる規模を超えています。また、税務署に目をつけられているからです。大企業は、税理士などのプロフェッショナルを総動員しており、またガードが固いですから、実効税率が低い。小規模事業者は慢性的な赤字にしていれば、税務署は調査に来ません。

そこで税務署は、それなりの売上げがあり、かつガードもそこまで固くない中堅企業に目をつけるのです。しかも、こういう危機のとき、健全な経営であるがゆえに、支援の優先順位として下におかれることも多い。

良質な雇用を生み出し、きちんと税金も納めている中堅企業こそ、日本の宝であり、大切にするべきなのですが、つらい憂き目に遭っている。

小規模事業者が中堅企業を目指して成長しているのであればいいですが、残念ながら、中小企業庁によると、成長しているのはたったの2・6%です。

給付するならば“条件”を設けるべき

事程左様に小規模事業者は不健全な経営を続けてきました。

先代までは小西美術工藝社も小規模事業者のように、ガンガン経費で落としていたようですが、私が社長になってからはそういうことはやめ、改革して、きちんと税金を払い、内部留保に回すようにしました。

おかげで、いまは半年以上、収入が途絶えても持ちこたえることができます。ここで無条件に弱い企業を助けたら、小西美術の経営方針は間違ったものとなります。

今回、小規模事業者というだけでサポートすれば、不健全な経営をするインセンティブをまた彼らに与えてしまいます。不健全でギリギリの経営であればあるほど、危機のとき、大きな声で悲鳴を上げることができ、政府の耳にも届きやすくなる。

給付を受けた小規模事業者はこう思うはずです。

「いざとなれば、国が助けてくれる。とにかくガンガン経費を使って、ギリギリでやっていく方が得だ」

実際、私の周りの零細企業の社長にも、「真面目に税金を納めるなんてバカだ」と考えている人は、かなりいます。事実、約8分の7の小規模事業者は慢性的な赤字です。

私は何も全ての小規模事業者に手を貸すなと言っているわけではありません。ただ、日本の悪平等的な考えで、弱い小規模事業者から優先して守るようなことをしてはいけないと言っているのです。

少なくとも、小規模事業者に給付するならば、売上げが下がっているかどうかだけでなく、生産性、ここ五年間で賃上げをしているかとかどうかなども、条件に組み込むべきです。賃上げは国の方針、それに従わないで、カネだけほしいというのは虫がよすぎるでしょう。何より、慢性的な赤字企業は税金を払っていない以上、もらう権利はありません。

起業から七年以上で、何期中何回税金を払ったかを基準にするべきです。これくらいのことをしないと、小規模事業者は平時に戻った時に、赤字経営を考え直してくれません。

生産年齢人口全員に給付を

先の経済学者は「雇用を守るのが優先」と主張していますが、労働者を守るのに、小規模事業者の経営者を守る必要はありません。それは、たとえば休業手当を国が肩代りするやり方で可能です。

労働基準法第二十六条では、使用者(雇用主)の責任による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の六割以上)を支払わなければならないとされています。ただ、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払い義務はありません。

いま、企業が休業を余儀なくされているのは国の要請です。ならば、休業手当を国が肩代りするのが筋だと誰もが思うところでしょう。

国が肩代わりするやり方であれば労働者を守ることができる上、小規模事業者の経営者に負担を軽くすることができても、経営者の優遇にはつながりません。バラマキに比べて休業しているところにだけ給付するので、国の負担も少なくて済む。

労働者は外出自粛で家から出られませんから、普段と違って交通費、交際費などのコストはかかりません。賃金の6、7割の休業手当でもなんとかやっていけます。

ベストなのは生産年齢人口(生活保護受給者、年金受給者、公務員を除く)にまんべんなく最低賃金分の給付をするやり方です。

「高所得者にもカネを配るのか!」と目くじらを立てる人がいますが、確定申告で調整すれば問題ありません。もっとも公平性でやりやすい。

しかし、いま政府が行っている対策は問題点が多い。

すでに休業手当に要した費用を助成する雇用調整助成金はありますが、休業届実施計画、休業協定書の提出など、いかにも“日本らしい”申請手続きをしなければなりません。有事であっても、こういった手続きを省略させないのです。

野党などは消費税減税を声高に叫んでいますが、私には、減税に意味がないように思えます。いまは外出自粛で、コンビニやスーパーくらいでしか買い物が出来ませんから、減税したところで、消費者の恩恵はわずか。
そもそも、買い物するための「元手」がないことが問題なのですから、減税ではたいした解決にならないでしょう。

日本のシステムは「平時」が永遠に続くこと前提

私から見ると、日本は「石器時代」のやり方をいまだに続けているように見えます。少なくともITがある世界のやり方ではない。きちんと、マイナンバーが普及させて、国民一人ひとりの情報がデータベース化され、ITを活用できていれば、もっとスピーディーに給付ができたはずです。

ドイツはオンラインで給付申請できたといいますし、インドも、国民ID「アダール」(日本のマイナンバーに相当)などのデジタル公共インフラを活用した直接現金給付を実施すると発表しています。

さらに、データベース化をすることによって分析ができて、どこにいくらの支援が必要なのかを、科学的な根拠を持って提案可能です。

もし日本が国民の情報をデータベース化していれば、生産年齢人口のなかに既婚者は○人、子供は○人、全員に給付するには○兆円必要などと数字がすぐに出てくるはずですが、政府の提示した経済対策百八兆円や、一世帯あたり10万円という数字には、あまりそういった根拠が見られません。

正確な数字が出てくれば「国は破綻する」という根拠のない話も不要となります。データがないから、誰にどう配ればいいかわからない、というのが政府の本音ではないでしょうか。

日本は平時が永遠に続くこと前提でシステムがつくられ、危機への備えがなされぬまま、ここまで来てしまいました。中小企業の優遇措置然り、マイナンバーの徹底不足然り、政府は国民に優しすぎます。

確定申告も、最近になって「オンラインでもできます」と啓蒙していますが、反発を招いてでも「今後オンラインでしか受け付けません」と強引にオンライン化を進めていれば、コロナが流行しているなか、税務署に人が溢れるなんてこともなかった。

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日本人は洗脳されやすい?

リモートワークも、企業はコロナ騒動が起きてから慌てて対応しています。これを機会に企業のリモートワーク化が進み、日本人の働き方がもっと効率よくなるのではないか、と期待している人がいますが、残念ながら難しいでしょう。

これも中小企業問題とつながっています。もちろん大企業、中堅企業では進むかも知れませんが、日本の企業360万社のうち、305万社は小規模事業者。小規模事業者はそもそも体力がなく、先述したようにリモートワークするための設備を整えることができませんから、日本全体で考えた場合、なかなか浸透していないでしょう。実際、大企業の導入率が57%なのに対して、中小企業は14%です。

中小企業の問題を分析するなかで、痛感したのが「日本人の素直さ」です。中小企業優遇措置を打ち出せば、中小企業が増える。これが経済学の原理です。

しかし、「政府の言うことなんて信用できない」「そんな政策うまくいくわけがない」と疑う人が多数いれば、原理どおりにいかないこともある。日本の場合は、1963年に中小企業基準法を制定した途端、またたく間に中小企業が激増していった。

洗脳されやすいというか、素直というか、とにかく政府の政策どおりに動くのです。今回の外出自粛でも、ロックダウンしたわけでも、厳しい罰則があるわけでもないのに、日本人は素直に従っています。

だからこそ政府の発信、政策は重要になってくる。少なくとも政府はこれ以上、生産性の低い、特に慢性的な赤字小規模事業者への優遇措置はもちろん、彼らを喜ばせるような発言は絶対してはいけません。

月刊『Hanada』2020年6月雨蛙号

デービッド・アトキンソン

https://hanada-plus.jp/articles/347

小西美術工藝社社長。1965年イギリス生まれ。日本在住31年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同社会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。『デービッド・アトキンソン新・観光立国論』(東洋経済新報社、山本七平賞、不動産協会賞受賞)『日本再生は、生産性向上しかない!』(飛鳥新社)など著書多数。

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