土石流とは主として第四紀に形成された未固結堆積物が河川や谷部に発生する水流に運ばれて周囲の谷を破壊する移動現象です。今回のネパールの土石流は、氷河と共に【モレーン moraine】(氷河が周囲の岩盤を削ってできた岩塊と土砂で構成される未固結堆積物)が移動した土石流であると言えます。
さて、実は私、主として火山地域に発生する土石流の【マイクロゾーネーションmicro-zonation】技術(危険度の可視化技術)を現地の研究者や学生に指導するため、過去に土石流災害大国のインドネシアおよび周辺地域を頻繁に訪問した経験があります。
以下、今回の土石流災害の基本メカニズムについて、少しだけ専門的な見地から簡単に説明したいと思います。
次の図は氷河とモレーンの移動現象の発生前後における航空写真に説明を書き入れたものです。
この地域には、Langtang LirungとTsangbu Riという2つの峰(ピーク)があります。いずれもスイスのマッターホルンや日本の槍ヶ岳と同類の【氷食尖峰pyramidal peak】と呼ばれる地形です。この地形は堅硬な峰を中心に四方の岩盤が氷河で削り取られた結果として形成されます。
ここに、破壊が起きた箇所をもう少し拡大した地形図を示します。
今回の土石流の原因となったのは、Tsangbu Riの直下に存在するモレーン(以下、上部モレーン)の端部の【崩壊 collapse】とその上部を覆う氷河の【雪崩 avalanche】と考えられます。航空写真からは【crown 崩壊の上部境界】の位置を正確に把握することができます。
この上部モレーンは、Tsangbu Riが氷食尖峰となる過程で形成された堆積物と推定され、高い位置で平坦面を形成しています。
ちなみに、モレーンの分布は、地質学分野でごく一般的に行われている地形判読によって推定したものです。傾斜の変換点を結ぶことによって岩盤上の被覆物の分布を概ね推定することができます。
雪崩と崩壊のcrownは、この上部モレーンの端部に位置しています。崩壊の原因としては、いくつか考えられますが、氷河の重力移動に伴う上部モレーン端部の応力集中が有力であると考えます。上部モレーンの端部では傾斜が急変しますが、このような部分は応力が集中するのです。
また、経年的な凍結融解のサイクルによつ上部モレーン端部の強度低下も原因として考えられます。
なお、地球温暖化によって、ヒマラヤの氷河の分布は縮小していますが、災害地点のすぐ南に位置するカトマンズの気温分布および降水量を見る限り、例年とほぼ同等であり、異常気象は認められません。

