農園「はなあふ」の猫|瀬戸内みなみ

農園「はなあふ」の猫|瀬戸内みなみ

瀬戸内みなみの「猫は友だち」 第7回


瀬戸内みなみの「猫は友だち」 第7回

農園「はなあふ」の猫

「安芸の山里農園はなあふ」があるのは、広島県のだいたい真ん中あたりの山のなかだ。

きれいな水が流れるせせらぎに蛍が棲み、タヌキやキツネ、シカにイノシシもひょっこり顔を出す。東京で会社勤めをしていた森昭暢(あきのぶ)さんが、故郷に近いこの土地で農園を始めたのは今から七年前のこと。そばにはいつも猫のモカがいた。

「実家も農業とは関係ないのですけど……。でも興味があったので、最初は趣味のつもりで新潟県上越市の米作り体験に参加しました。東京から月に1回通っている頃に、上越の友人の家で生まれた猫がモカです」

都会と農村を行き来しながら農業を学ぶうち、自然の力、本物の食べ物に魅せられた。また人々が伝えてきた知恵を将来につなげたい、という気持ちも強くなり、有機農業を志すことを決意した。

「それにやっぱり、自然に囲まれて暮らしたいと思ったんです。好きなんですよね」

「はなあふ」とは、春・夏・秋・冬の頭文字をとったもの。日本の四季や暮らし方を大切にしたいという気持ちを表現したものだという。

農地に過剰な負荷をかけないように、多くの品目を少しずつ作る。農薬や化学肥料を使わない、自然農法による栽培を目指す。キヌサヤにキュウリ、ナス、小松菜にほうれん草、色とりどりのダイコンやニンジン……。四季を通じて栽培される「はなあふ」のいろんな野菜は、どれもしっかりとしていて味が濃い。農園には田んぼもあって、こだわりのお米を育てている。

「野菜の苗を育てているハウスに水やりするときには、モカを連れて行くこともあります。畑の周りに生えている草を食べたりして嬉しそうなんです」

森さんもまた嬉しそうだ。

ほとんど家のなかにいるモカだが、どうやら猫として不思議な力を持っているらしい。

「ホームページに載せているモカの写真を見て、遠く関東や新潟の方から野菜の注文をいただくこともあります。直接会ったこともないのに、猫のおもちゃやフードを送ってくださる方もいる。うちの農園で働く研修生もみんな、モカと触れ合うと猫が大好きになってしまうんですよ。

モカは特別な猫なんです」

ご近所さんも猫好きが多い。特にお向かいの牛農家では、藁のなかで猫たちがぬくぬくと暮らし、ネズミ退治という本来の使命を果たしている。「はなあふ」に出入りしている外猫も何匹かいるが、モカはおおように迎えているそうだ。

人間も動物も植物もみな、命が穏やかに息づいている山あいの里である。

(初出:月刊『ねこ新聞』2018年5月号)

※「日本で唯一の『猫文学』新聞」、月刊『ねこ新聞』については公式サイト( http://www.nekoshinbun.com )をご覧ください。

著者略歴

瀬戸内みなみ

https://hanada-plus.jp/articles/202

作家。広島県生まれ。上智大学文学部卒業。会社勤務などを経て、小説、ノンフィクションなどを手掛けている。テーマは猫と旅と日本酒。著書に『にっぽん猫島紀行』(イースト新書)。月刊『Hanada』で「わが人生に悔いなし」を連載中。

関連する投稿


山本太郎ファクトチェック|坂井広志

山本太郎ファクトチェック|坂井広志

「空気を読めるから、空気を読まない」。“歩く風評被害”と呼ばれる山本太郎がついに、東京都知事選に立候補。“おもしろい”選挙戦になることは間違いないが、“おもしろい”で本当にいいのだろうか。空気に流されないために、山本太郎の過去の言説をファクトチェック!彼は民主主義の救世主か、それとも……。“ファンタジー・ヤマモトタロウ”の正体とは?


感染爆発回避した日本人の力|櫻井よしこ

感染爆発回避した日本人の力|櫻井よしこ

命令権の発動なしにここまで達成したのは、日本でなければできない立派なことだ。ただウイルスとの闘いはこれからも恐らく長く続くだろう。第2波、第3波の襲来を現体制で乗り切れるのか。わが国の危機対応体制はこのままでよいのか。


三種の武漢ウイルス 「集団免疫」という起死回生|山口敬之

三種の武漢ウイルス 「集団免疫」という起死回生|山口敬之

「安倍政権は死因までも誤魔化しているのだ」。安倍政権のコロナ対応は失敗だったのか。日本はウイルスの抑え込みに最も成功した国であるにもかかわらず、なぜ、支持率は急落したのか。安倍政権の一連の対応を振り返りながら、“集団免疫獲得”の実像に迫る!L型の流入の有無こそが、日米伊の分水嶺となった――。


致死率と死亡率を混同 危機煽るワイドショー|藤原かずえ

致死率と死亡率を混同 危機煽るワイドショー|藤原かずえ

日本は世界の主要国に比べて死亡率が極めて低い。にもかかわらず、日本国民の日本政府への評価が低いのはなぜなのか。ひとつの理由が、常識的な安倍政権のリスク管理をワイドショーがヒステリックに罵倒し、情報弱者をミスリードしたことにある――。新型コロナをめぐる日本政府の一連の対応を、データとロジックで読み解く!日本モデルは成功したのか、それとも――。


「実子誘拐ビジネス」の闇 人権派弁護士らのあくどい手口|牧野のぞみ

「実子誘拐ビジネス」の闇 人権派弁護士らのあくどい手口|牧野のぞみ

「10年前の今日(5月6日)、娘が誘拐された――。2歳だった娘は、いまや中学生である」。突然、愛するわが子を奪われた父親(A氏)。彼の身に、いったい、なにが起きたのか。その背後には、連れ去り勝ち、虚偽のDVなど「実子誘拐」の方法を指南する人権派弁護士らの暗躍があった――。愛する娘を奪われた父親が、魂の告発!日本で日常的に行われている「実子誘拐ビジネス」の闇に迫る!


最新の投稿


日本の先端技術を海外流出から守れ|奈良林直

日本の先端技術を海外流出から守れ|奈良林直

中国は毎年5000人の留学生を選抜し、外国の一流大学に国費留学生として送り出し、工学やバイオなどの先端分野を学ばせて、自国に無い技術を吸収してきた。日本は外国人留学生の最多を占める12万人の中国人学生を受け入れているが――。


【動画】今明かされる平成「失われた30年」の新事実|上念司×高橋洋一

【動画】今明かされる平成「失われた30年」の新事実|上念司×高橋洋一

『経済で読み解く日本史』6巻セット発売記念・特典オーディオブック収録。平成経済の裏の裏を知り尽くした高橋洋一氏が経済と金融の裏面を語る!


なべやかん遺産|「キングギドラ」

なべやかん遺産|「キングギドラ」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「キングギドラ」!


自称元慰安婦と悪徳活動家集団の正体|山岡鉄秀

自称元慰安婦と悪徳活動家集団の正体|山岡鉄秀

“詐欺師”と“詐欺師”の痴話喧嘩で、積もり積もった嘘と不正がついに噴出!元慰安婦支援団体「挺対協(現・正義連)」とはいったいどんな組織なのか。北朝鮮との関係、日本社会党との秘密会談、「挺対協」結成の経緯が改めて明らかに。銭ゲバたちによる“慰安婦像ビジネス”はもう終わりにすべきだ。


The identity of an organization dealing with the Korean comfort women issue |Tetsuhide Yamaoka

The identity of an organization dealing with the Korean comfort women issue |Tetsuhide Yamaoka

The shameful identity of "the Korean Council for the Women Drafted for Military Sexual Slavery by Japan"is now revealing itself through the disgraceful infighting between Ms. Lee Yong-soo, a self-proclaimed former comfort woman, and Ms. Yoon Mi-hyang, the former representative of the Council.