高市早苗内閣府特命担当大臣(科学技術政策)が昨年の自民党総裁選の時から主張している小型核融合炉の開発戦略を策定する政府の「核融合戦略有識者会議」の初会合が9月30日に開催された。世界の開発競争に負けないように開発投資を急ぐべきだとの意見も一部にあるが、実は核融合炉が商業用発電炉として実用化される見通しすら付いていないことを指摘したい。本稿では、日本も参加してフランスで建設中の巨大な国際熱核融合炉実験施設(ITER=イーター)の現状も紹介し、有識者会議の議論に科学的知見に基づく冷静さを求めたい。
熱核融合反応とは何か
巨大な発熱を伴う核反応は、太陽などの恒星で起きている核融合反応と、原子力発電所で利用している核分裂反応に大別される。前者は水素の同位体である重水素や三重水素(トリチウム)を電離気体とし、強い磁場で圧縮して高温高圧の「ローソン条件」を満たす必要がある。その代表的な目安が「プラズマの温度1億度、密度が1立方センチ当たり100兆個、閉じ込め時間1秒」である。このローソン条件を満たして核融合反応に成功した核融合炉実験装置の代表が我が国のJT60である。日本原子力研究所が1985年から運用し、2メガワット(MW)の電力でプラズマを加熱し、熱核融合反応に成功して、ほぼ同等の熱エネルギーを取り出すことが30秒継続できた。つまり2×30で60メガジュール(MJ)のエネルギーを取り出したことになる。加熱エネルギーに対して何倍の核融合反応エネルギーが取り出せたのかという値をQ値というが、JT60ではQ値はほぼ1である。最近、欧米では、小型核融合炉の成功を喧伝しているが、JT60と大差ないレベルである。
巨大国際プロジェクト「イーター」
JT60の実績を踏まえて、巨大な国際熱核融合炉実験施設イーターのプロジェクトが開始され、フランスに建設中である。完成は予定よりだいぶ遅れたが2025年ごろとされる。総工費は2兆8000億円に膨らんだ。建設候補地をめぐってはJT60の実績がある日本が青森県への誘致を競った。最終的にはフランスのキャダラッシュに決定したが、我が国が核融合炉の主要機器を供給することになった。プラズマを強い磁場で閉じ込める超電導コイルや中性ビーム加熱装置、トリチウム施設などである。広大な敷地に炉の本体と関連施設が建設されている。核融合による発電を実用化するには大型化が必須で、中国も国内に建設した。
イーターが目標とするQ値は10である。5万キロワットを投入し10倍の50万キロワットの核融合エネルギーを得るが、運転時間はわずか400秒だ。商業核融合炉として実用化するには、Q値は40、1年間の連続運転が必要である。核融合で発生する中性子照射に1年間耐える炉壁の材料を人類はまだ手にしていない。我が国はJT60を改良したJT60SAを活用しつつ、我が国が主導するイーターのプロジェクトの成功に予算と人を集中すべきだ。(2022.10.31国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)