新領域での戦いに自衛隊は取り残される|織田邦男

新領域での戦いに自衛隊は取り残される|織田邦男

サイバー戦においても立ちはだかる「専守防衛」の軛。日本は現代戦に取り残される一方である。にもかかわらず、「自衛隊は現代戦が戦えるのか」といった本質的な問いかけをする政党はない。


参院選が始まり、各党の舌戦が続く。防衛力増強については、共産党と社民党を除き、概ね認めているようだ。だが、相変わらず論議は表層的であり、自衛隊は現代戦が戦えるのかといった本質的な問いかけをする政党はない。

サイバー戦を戦えない

例えばサイバー戦である。現代戦では、旧来の陸海空といった戦闘領域(ドメイン)に加え、宇宙、サイバー、電磁波といった新しいドメインが加わった。サイバー攻撃は物理的破壊のない戦闘領域で使われる有効な武器であり、同時に「諜報活動」でもある。その進歩は日進月歩であり、サイバー戦の勝利なくして現代戦の勝利はない。

2014年、自衛隊にサイバー専門部隊が発足したが、あくまで自衛隊をサイバー攻撃から守る部隊であって、自衛隊以外を防護する任務はない。だが、自衛隊は自らを守ることさえ十分な対応がとれない現状はあまり知られていない。

サイバー攻撃を受ければ、平時、有事を問わず、また物理的被害の有無にかかわらず、即座に反撃するのが国際常識である。相手のネットワークやサーバーに入り込んで発信元を突き止め(アトリビューション)、反撃手段を講じて再攻撃を抑止する。これはアクティブ・ディフェンスと呼ばれ、サイバー戦のイロハである。だが、自衛隊は「専守防衛」と「通信の秘密」を保証する憲法に阻まれ、これが実施できない。

サイバー戦を律する国際法や国際条約は存在しない。「国際慣習法が内政干渉や武力行使に至らないサイバー攻撃を禁じているとの国際合意はない」と米国高官が語るように、諸外国の対応は無制限である。自衛隊だけがアトリビューションさえ実施できない。

「専守防衛」の呪縛

自衛隊の対応について、2020年4月、河野太郎防衛相(当時)は次のように述べた。「サイバー空間でも専守防衛が前提で、関係する国内法、国際法を遵守する考えに変わりはない」と。そして、自衛隊が反撃し得る場合として次のような事例を挙げた。すなわち、電力会社のネットワークや航空管制システムが乗っ取られるなどした結果、①原子力発電所の炉心溶融②航空機の墜落③人口密集地の上流のダム放水―等が起こった場合である。

そもそも原発の炉心溶融のような物理的被害が生じるまで反撃しないのは、サイバー戦の敗北である。だが反撃は「専守防衛」の軛(くびき)が立ちはだかる。サイバー攻撃も他の武力攻撃事態と同列に扱い、「物理的手段による攻撃と同様の極めて深刻な被害が生じ、組織的・計画的に行われている場合」に限って反撃できるとする「ガラパゴス」的対応では国民を守れない。日本は現代戦に取り残される一方である。(2022.06.27国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

潜水手当の不正受給、特定秘密の不正、食堂での不正飲食など、自衛隊に関する「不正」のニュースが流れるたびに、日本の国防は大丈夫かと心配になる。もちろん、不正をすれば処分は当然だ。だが、今回の「特定秘密不正」はそういう問題ではないのである。


アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

副大統領候補に正式に指名されたJ.D.ヴァンスは共和党大会でのスピーチで「同盟国のタダ乗りは許さない」と宣言した。かつてトランプが日本は日米安保条約にタダ乗りしていると声を荒げたことを彷彿とさせる。明らかにトランプもヴァンスも日米安保条約の本質を理解していない。日米安保条約の目的はジョン・フォスター・ダレスが述べたように、戦後占領下における米軍の駐留と特権を日本独立後も永続化させることにあった――。


大丈夫か、自衛隊! 航空自衛隊の高級幹部選抜試験で不正発覚!|小笠原理恵

大丈夫か、自衛隊! 航空自衛隊の高級幹部選抜試験で不正発覚!|小笠原理恵

「海自ヘリ墜落、2機が空中衝突」(4月20日)、「手榴弾爆発で20代の隊員1人死亡」(5月30日)などトラブル続きの自衛隊だが、最高幹部階級への登竜門である選抜試験でも不正が発覚した――。


最新の投稿


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

高齢者のインフルエンサーと呼ばれ、ベストセラーを次々と出してきた和田秀樹氏が「幸齢党」を立ち上げた。 なぜ、いま新党を立ち上げたのか。 「Hanadaプラス」限定の特別寄稿!


【今週のサンモニ】バンカーバスターは何を破壊したのか|藤原かずえ

【今週のサンモニ】バンカーバスターは何を破壊したのか|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「戦争が起きる二つのメカニズム」を知っていますか  千々和泰明『世界の力関係がわかる本』(ちくまプリマー新書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「戦争が起きる二つのメカニズム」を知っていますか 千々和泰明『世界の力関係がわかる本』(ちくまプリマー新書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


8647―「トランプ暗殺指令」が示したアメリカの病理|石井陽子

8647―「トランプ暗殺指令」が示したアメリカの病理|石井陽子

それはただの遊び心か、それとも深く暗い意図のある“サイン”か――。FBIを率いた男がSNSに投稿した一枚の写真は、アメリカ社会の問題をも孕んだものだった。