トバク、トバクと喧しい。
テレビではコメンテーターや芸能人が、正義面して「トバクは許せない!」。
サラリーマンや芸能界でマージャンをやってる奴で、一銭も賭けないでやってる奴なんているのか。
しかも1000点100円だったというではないか。特に高いレートでもない。検事長が1000点100円、可愛いもんじゃないか。芸能界なんて、その何十倍だろう。
ぼくも中学時代の仲間と月に1回くらいマージャンをやっていた(最近はとんとご無沙汰だが)が1000点100円だった。雀荘で休日の昼過ぎから始めて、夜の9時頃までで半チャン7~8回、ツキがなくて大負けしてせいぜい2万円くらい。
その後、ラーメン屋か焼肉屋で夕食。その食事代はその日、勝った奴が払うルールだったから、勝った奴も時に赤字になってボヤいていたものだ。気の合った仲間と、下らぬ冗談を飛ばしながらやるマージャンくらい楽しいものはない(いや、楽しいことは他にもたくさんあります)。
黒川検事長と記者たちも、月に1~2回やっていたというから、その程度のマージャンだったのだろう。新聞記者たちにはそれなりの思惑もあったかも知れないが、黒川検事長にとっては楽しい息抜きだったに違いない。
それは、たしかに自粛、自粛のこの時期にやらない方がよかった。しかし、それをあたかも大罪のようにトバク、トバクと非難する連中の正義面が、イヤだ。
ぼくが、マージャンをやり始めたのは大学時代。
先ほど書いた中学時代の仲間で、高校時代に始めていたチョイ悪の同級生がいて、彼が指南役で、毎週、わが家に12~13人集って大会を開いていた。雀卓は3卓。
むろん賭けはしない。
大きな模造紙に一覧表をつくって壁に貼り、1ヵ月ごとに集計しては優勝とか準優勝とかやっていたのだから、たわいないと言えばたわいない。
しかし、楽しかった。
その仲間たちと、何十年もやってきたわけだ。
つくづく思うが、マージャンくらい面白いゲームはない。
50年やってきて一度も飽きたことがない。しかもお喋りが楽しい。ポーカーも面白いが、相手の顔色を伺ってばかりで、お喋りははずまない。
長い間にはぼくらが開発したルールもある。
ひとつは「盗塁」。
時にリーチをかけた捨て牌で他のメンバーに当てられることがある。これが「盗塁」で1翻つける。
張切って「リーチ!」と宣言したとたんに「盗塁!」。これは萎えます。
もうひとつは「2塁打」「3塁打」。
捨て牌で上がられると、ふつうは上家が取るのがルールだが、他のメンバーが同時に上りとなったら、そのメンバーにも払う。2人なら「2塁打」、3人当たれば「3塁打」。
ま、「3塁打」は滅多にないが、これは当られた方はこたえた。
長い麻雀人生、朝日新聞社で『uno!』という女性誌をやっていた時には、読者を募って「西原理恵子杯争奪麻雀大会」というのを開いたこともある。会場は深夜の八芳園宴会場。
むろん賭けはナシ。
もう何度も書いたから略すが、作家藤原審爾さんの自宅応接室で、かの阿佐田哲也さんと卓を囲んだのも自慢のひとつだ。むろん勝てるハズもありませんでしたが。
繰り返す。トバク、トバクと正義漢面するな!
著者略歴
月刊『Hanada』編集長。1942年、東京生まれ。66年、文藝春秋入社。88年、『週刊文春』編集長に就任。部数を51万部から76万部に伸ばして総合週刊誌のトップに。94年、『マルコポーロ』編集長に就任。低迷していた同誌部数を5倍に伸ばしたが、95年、記事が問題となり辞任、1年後に退社。以後『uno!』『メンズウォーカー』『編集会議』『WiLL』などの編集長を歴任。2016年4月より現職。