日本国憲法は「敗戦条約」だった|渡部昇一 × 髙山正之

日本国憲法は「敗戦条約」だった|渡部昇一 × 髙山正之

4月に一周忌を迎えられた渡部昇一さんと、元産経新部記者の髙山正之さんがお送りする『渡部昇一の世界史最終講義 朝日新聞が教えない歴史の真実』から、改憲議論の前提となる世界史的教養のエッセンスをお届けいたします。


渡部昇一の世界史最終講義 朝日新聞が教えない歴史の真実

4月に一周忌を迎えられた渡部昇一さんと、元産経新部記者の髙山正之さんがお送りする『渡部昇一の世界史最終講義 朝日新聞が教えない歴史の真実』から、改憲議論の前提となる世界史的教養のエッセンスをお届けいたします。

マッカーサーとカルタゴの平和

昭和天皇とダグラス・マッカーサー

渡部 いわゆる歴史認識問題では、日本に言論の自由は認められていません。世界史におけるアングロサクソンの勝利は、言論戦が寄与した面が大きかった。私の知人である若狭和朋さんがこう書いています。


「自国を悪く考えるようになってからイスパニア大帝国は衰滅に至った。では、誰がスペインを悪く言ったのか。イギリスやオランダである。イギリスやオランダが植民地でいかに酷いことをしたかは、いまでは広く知られている。同じことをスペインもやった『だけ』である。しかし、スペインは歴史の敗北者になり果てた。なぜか。スペイン人たちは自国の歴史に自信が持てなくなっていったからである。


悪逆非道の国、虐殺の国……無数の悪口がスペインに浴びせられ、プロパガンダ(宣伝)合戦に敗北したスペイン人は、国民的に元気を失い、歴史の敗北者にさせられた。自信を喪失し、自己嫌悪に苦しみ、自虐に親しみ、さびしく自国を嘲笑する国民には衰滅しか道はない」(『昭和の大戦と東京裁判の時代 (日本人に知られては困る歴史)』)


南アメリカでスペイン人がいかに残酷なことをしたか、スペイン語の報告書(ラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告』)を英語に翻訳したパンフレットを世界中にばらまいたのが、凋落の一因でした。日本も自国の言い分を英語で堂々と発信すべきですが、戦争の残虐行為や植民地や奴隷制度など、本家の欧米人に常に先手を取られて「日本こそ悪いことをした」という話ばかりが広がっています。


検閲で言論を封じ、日本軍の悪だけを宣伝していったGHQの、「軍国主義者の国民に犯した罪は枚挙にいとまがないほどだが、時のたつにしたがって次々に動かすことのできない明瞭な資料によって発表されていく」という「太平洋戦争史」掲載命令書の洗脳が、今なお日本人を縛っているのです。本当の戦時下を知っている私には効き目がありませんでしたが、戦後、憲法とマスコミを使って、国民を国家と敵対するよう仕向けたのは効果的でした。日本人が本来の歴史観を取り戻すために、どうやって真実の歴史を広めるかという課題です。


髙山 ジョン・ダワーは、米国が「軍国主義者に騙された日本人を民主化」する「歴史的にも前例のない大胆な企てに乗り出した」「マッカーサーのカリスマ性と米軍将兵の紳士的な振る舞いが日本統治を成功させた」と真っ赤な嘘を書いています。


調達庁の統計によれば、占領期、米兵によって10万人の女性が強姦され、2536人が殺されています。沖縄では6歳の幼女が強姦され殺されました。小倉市は朝鮮戦争時に一個中隊の黒人兵に3日間占領され、略奪と強姦にさらされました。今のイスラム国と似た状況でしたが、すべてが報道規制で闇に葬られたのです。


マッカーサーは終戦間際に緑十字船の阿波丸を魚雷で沈没させた賠償金を日本政府に出させるため、無償供与だったガリオア・エロア援助を有償に切り替えさせた、あくどい男です。彼は自分の滞在費も駐留米軍の費用もすべて日本政府に出させました。東京裁判の費用も、検事の宿泊から遊興費まで、すべてです。


ここまでひどいマッカーサーの統治を、栄光のままとどめようとするのが、米国の歴史学であり、メディアなのです。今や日本を敗戦に縛りつける学問的支柱となったダワーの著作『敗北を抱きしめて』は、ピューリッツアー賞を取っていますから。ダワーの「前例がない企て」がいかにインチキか。ローマ史の知識がある米国人なら、ローマが最大の敵であるカルタゴの牙を抜くために、紀元前3世紀、ポエニ戦役で何をしたか知っているでしょう。


ローマのスキピオはハンニバルがローマの南に布陣している間に、今のリビアにあったカルタゴを攻め、ハンニバルは急いで戻りましたが、敗れました。勝ったローマはカルタゴに対し、カルタヘナなど植民地の没収・交戦権の放棄・軍の解除と軍艦の焼却・膨大な賠償金の支払いを要求しました。


さらに、その調印が行われるまで、ローマ軍の略奪・強姦を放置し、カルタゴの交易船も燃やして農業国化を強いた。マッカーサーの戦後処理は、「カルタゴの平和」、つまりスキピオが出した降伏条約の内容と、憲法を含めて、瓜二つです。

渡部 それは当然、ローマ史の知識のある人間が作ったんでしょう。


髙山 事実、蔣介石の顧問だったオーエン・ラティモアは、日本の戦後処理について「カルタゴの平和」を何度も口にしています。軍隊の不保持と交戦権の放棄はローマが心から憎んだカルタゴに示した降伏条件そのものです。


条約締結後も、ローマのマルクス・ポルキウス・カトーこと大カトーは演説の最後に必ず「それにつけてもカルタゴを滅ぼさねばならない」と語り続けました。同じ情報を繰り返し吹き込む。そして、隣国ヌミビアの侵略に対しカルタゴが自衛戦争を始めると、「ローマの許可なしに戦った。交戦権放棄違反だ」という口実で攻め込み、今度こそ滅ぼしました。


富を奪って王侯貴族は皆殺し、住民は奴隷に叩き売って、土地には塩を撒いて草木も生えないようにする。これが「カルタゴの平和」と呼ばれました。ローマ史を読んだ者なら誰でも「日本を叩き潰し、そこらの名もない三等国にする」米国の意図が分かったでしょう。


GHQの仕事を見ると、まず日本が統治していた台湾、朝鮮、南洋諸島を没収し、永世中立国のスイスに対してまで、膨大な賠償金を支払わせ、戦力不保持と交戦権放棄を明記したマッカーサー憲法を呑ませた。F・D・ルーズベルトは憎い日本人を4つの島に隔離して、衰亡させるつもりだったからです。


カルタゴの交易船に相当する日本の工業力については、鍋釜しかつくれないレベルまで落とし(デモンタージュ)、農業国化することがエドウィン・ポーレーの賠償使節団によって計画されました。


第一次計画で昭和初期まで工業力を落とし、重工業は解体、機械類はシナ朝鮮などに運び出され、第二次計画では明治時代まで落とす予定でしたが、そこで朝鮮戦争が起きて中断を余儀なくされました。


しかし農業国化はそのまま進められ、NHKは今も「農業の時間」とかアホな番組を作り続けています。笑えるのは、ローマに略奪の自由を認めた項目までGHQはモノマネし、在日朝鮮人・シナ人に日本中の駅前一等地を不法占拠させました。


渡部 そうですね。戦後改革の目玉、財閥解体と地主をなくすなんて、いずれもアメリカ本国では絶対に不可能です。そこまでして日本を弱体化したかった。特に財閥の力を恐れたんでしょうな。


髙山 そうです、ゼロ戦を1万機も作ってしまうわけですから。マッカーサーは日本的なものをすべて壊したかった。なぜこんな黄色いヤツらがロシアに勝ち、そして大英帝国の強さの象徴シンガポールと米国の太平洋戦略拠点フィリピンを落とし、パーシバルや自分を追い出すことができたんだ、と。


前にも触れましたが、ルーズベルトは真珠湾の後、3か月で日本をやっつけるはずで、マッカーサーはその準備をしていながら、手も足も出ないうちにやられてしまいました。


渡部 実際そうでしょう。戦前のアメリカ人は、有色人種を下級民族として位置づけないと、世界は成り立たないと信じていた。それなのに彼らの植民地に、日本人が大きな顔で進出したので、癪に障ったと思いますね。


髙山 彼自身、まさに敗軍の将だったから、もう悔しくて、日本を目の敵にして、インディアンにもやらなかったようなひどい仕打ちで、うんとみすぼらしく貶めようとしたのでしょう。彼の洗脳工作や、手をつけた憲法、皇室、経済力、軍事力、さらにはカトリックの反対で失敗した靖國神社の解体工作(ドッグレース場に転換)を見れば、日本が二度と歴史を取り戻さないようにする狙いがあったとわかります。


マッカーサーは日本を壊そうと、散々いじくり回しましたが、元に戻るべきもの、日本が本来持っているいい要素はだいたい直り始めています。日本はルーズベルトやマッカーサーにあれほど憎まれながら、歴史の復元力で、いまだに滅びていません。それでも、憲法はじめ、まだ直せないでいる重要なものが、いくつかあります。

敗戦国の悲哀

渡部 歴史を取り戻すという観点で大事なことは、敗戦国に対して恒久的な法を強いてはいけないという国際法があるのに、GHQは憲法を筆頭に、日本を壊すようなあらゆる立法を強いてしまったことです。


日本はポツダム宣言の8項目を受諾し、その中に「陸海軍の無条件降伏」はありましたが、国家の無条件降伏ではありません。「ハーグ陸戦法規」第43条には「交戦時に占領地の統治権を掌握した際、被占領地の法律を尊重する義務」が定められています。ところがアメリカは、「降伏した日本と交渉する必要はない」という姿勢で占領憲法を押しつけてきました。


ですから、私がずっと主張しているように、憲法の本質は二重構造の政府に強いられたもので、日本政府がありながら、その上にもう1つ政府がある二重支配を受けていた。したがって、主権の発動としての憲法が成立するはずがないんです。主権は占領軍にあったのに、日本政府が作ったと嘘をついている新憲法の本質は、占領基本法です。


髙山 もっといえば、敗戦条約です。戦力の放棄を筆頭に、〝米国との約束ごと〟を呑まされた対米条約ですよ。


だから戦後の日本人が、何か政治的に新しい動きを起こすとき、いちいち憲法違反かどうかで騒ぐのは、米国が定めた「国としての制約」に反するのではないか、敗戦国として許されない、連合国に対する条約違反になるのではないか、と怖れる思考が身についてしまっているからではないでしょうか。


渡部 そう、日本国憲法の定めたことを絶対に守らなければいけない、約束ごとのようになっている。だから主権がなかったのに、あったようなことをいう憲法学者は、けしからんと思いますね。


憲法学の先生が最初の授業でいうべきは、「これから憲法の講義をします。憲法というのは国の主権そのもののはずであり、主権の発動によるものと定義されていますが、しかしこれから教える日本国憲法は、占領軍の主権で決められたものですから本当の憲法ではないと思って聞いてください」と釘をさすところから始めなければいけないのに、あたかも神聖不可侵なもののように教えることがおかしい。


あるいは国際法の学者なら、「交戦権のないような憲法を持ってはいけない」というべきでしょう。しかし、東大や京大では絶対にそう教えない。


だいたい前文を読めば、日本国民の「安全と生存の保持は」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」する、つまり外国人に任せるとある。世界中の独立国でこんな憲法はあり得ませんよ。これだけで十分、破棄する理由になるはずです。


日本人の安全と生存まで外国に預けるのが憲法であるわけがない。あんな文句が書いてあるから9条も出てくる。あの前文は外国の統治下にあるということを宣言しているのと同じですから、憲法といってはいけないと、私は思っております。


占領軍は主権のない日本政府に、一方的に草案を押しつけて、国民はカヤの外でした。今となっては皆忘れていますが、占領軍は日本を30年間は統治する予定だったので、間接統治のための基本法が必要だったわけです。


ところが朝鮮戦争や冷戦などで国際情勢が変わり、講和条約を結んで独立した後も、自主憲法を制定せず、占領基本法のままずるずるとやってきた。


髙山 まさにカルタゴの敗戦条約とまったく同じですね。キューバという先例もあります。


19世紀末、米国は斜陽のスペインからキューバとフィリピンを奪うために、スペインと戦っていた独立派のキューバ人やフィリピン人に「主権を尊重し、独立を支援する」「スペインを倒したら独立させる」と約束して介入しました。


スペインが早々に降伏すると、国務長官のジョン・ヘイは約束を破ってキューバを米軍の軍政下に置きます。その上で、独立運動を戦ったキューバ人指導者を中央から排除して、親米派の政権を擁立し、国務省が書き上げた新しいキューバ共和国憲法の草案の承認を迫りました。


草案には「キューバの外交、財政を米国が管理し」「それを遂行するために米軍の駐屯する軍事基地グアンタナモを提供する」条項があって、提案した米上院議員オービル・H・プラットの名をとって、プラット条項と呼ばれました。


キューバは反発しましたが、反対派の追放と分裂工作で1901年6月、憲法は承認され、「彼らは子供。自治は期待できない」とプラットが感想を話しています。キューバ人は60年後、カストロの革命でやっとこの屈辱の憲法を捨てましたが、こうしたキューバの姿に、日本人は既視感を持たずにいられないでしょう。


マッカーサーは日本の指導者層をすべて追放し、工業力を破壊して農業国にし、教育から産児制限まで強制し、あげくに憲法を廃して米国製の草案を押しつけてきました。キューバと同じです。


草案はGHQの若僧たちが10日間で書き上げたもので、マッカーサーは「日本の政府は国民に対し邪悪な存在」だから、「戦争をしないよう軍隊を放棄させる」という2つの「滅びの条項」を入れました。マッカーサーは「日本人の精神年齢は12歳」とプラットの口吻までそっくりマネています。


さらに日本が主権を回復する時、米国は講和条約調印と同時に日米安保条約を吉田茂に結ばせ、日本中、それこそ東京のすぐ横にまで「グアンタナモ」、米軍基地を置く権利を認めさせました。


憲法改正とは、そんなマッカーサー憲法に則った手続きのことであり、改正ではなく破棄するというべきです。破棄した上で日米安保を改正し、日本からグアンタナモを追い出すのが手順でしょう。

続きは『渡部昇一の世界史最終講義 朝日新聞が教えない歴史の真実』で!

著者略歴

渡部昇一

https://hanada-plus.jp/articles/193

上智大学名誉教授、英文学者、文明批評家。1930(昭和5)年山形県鶴岡市生まれ。上智大学大学院修士課程修了後、独ミュンスター大学、英オクスフォード大学に留学。Dr.Phil.,Dr.Phil.h.c.(英語学)。第24回エッセイストクラブ賞、第1回正論大賞受賞。著書多数。2017(平成29)年4月17日逝去。

著者略歴

髙山正之

https://hanada-plus.jp/articles/194

ジャーナリスト。1942(昭和17)年生まれ。65(昭和40)年、東京都立大学卒業後、産経新聞社入社。社会部デスクを経て、テヘラン、ロサンゼルス各支局長。2001(平成13)年から07(平成19)年まで帝京大学教授。『週刊新潮』で「変見自在」を連載中。

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